2月7、8日、醸造家の岩崎元気(いわさきもとき)さん(39)=栃木市=らが栃木県産ワインの魅力発信、知名度向上を図るため、都内から日本ソムリエ協会名誉ソムリエや酒類業界記者、ワイン愛好家を招き、県内のワイナリーを案内するというので、私も同行した。あるワイナリーを開設時に取材したことはあったが、ワイナリーを視察しながらワインをテイスティング(官能評価)するというプロの目に触れるのは初めてだった。視察からは標高差、寒暖差がブドウの品種、生育の違いからワイン酒質に個性が出るという「栃木ワイン」の特徴が浮かび上がり、栃木ワインをアピールする新たな糸口になると感じた。

 視察を企画し、案内役になったのは、岩崎さんと「ココ・ファーム・ワイナリー」(足利市)栽培長の石井秀樹(いしいひでき)さん(42)。2人は昨年4月、名誉ソムリエの鈴木英夫(すずきひでお)さん(67)をココ・ファームと「CfaBackyardWinery」(足利市)を案内しており、今回は県北、県央を巡ることにした。

ブドウ畑とワイナリー「Y’sVineyards」=2月7日、那須塩原市関谷
ブドウ畑とワイナリー「Y’sVineyards」=2月7日、那須塩原市関谷
ワイン醸造について説明する山崎さん(右)=2月7日、那須塩原市関谷
ワイン醸造について説明する山崎さん(右)=2月7日、那須塩原市関谷
ワインの味わいについてテイスティングの感想を聞く山崎さん=2月7日、那須塩原市関谷
ワインの味わいについてテイスティングの感想を聞く山崎さん=2月7日、那須塩原市関谷

 7日、標高約400メートルにある那須塩原市関谷の「Y,sVineyards」を訪ねた。代表の山崎賢子(やまざきかしこ)さん(45)は道の駅湯の香しおばら(アグリパル塩原)に隣接する約0・9ヘクタールのブドウ畑を一人で管理し、ワインを醸す。金・土曜のショップ運営や営業にも取り組む。山崎さんはニュージーランドの大学や米国のワイナリーでブドウ栽培やワイン造りを学び、山梨県の老舗ワイナリーで経験を積んだ。2016年に那須塩原市で就農し、17年からブドウ栽培を始め、同市がワイン特区になったことから21年に免許を取得して醸造を開始。「日本ワインコンクール2025」欧州系品種白ワインの部でシャルドネが銅賞を受賞した。

 鈴木さんは、プティマンサン、シャルドネの白ワインについて「香りが黄色系のフルーツと白い花で、テイストがうま味と心地よい酸の余韻が比較的長い」と高評価。「一人で運営するのは大変だと思いますが、それだけワインへの愛が深いと感じた」とした上で「地元のテロワールに合ったブドウを選び、香りと味のバランスのよいワインに感動した」と賛辞を贈った。酒類業界記者も「瓶内2次発酵という手間のかかるスパークリングワインを随分安く提供しており、日常使いしやすいワインを目指されていると思った」と感じ入っていた。

ブドウの栽培品種や栽培方法をついて鈴木さんの質問に答える石井さん(左)=2月7日、那須塩原市板室
ブドウの栽培品種や栽培方法をついて鈴木さんの質問に答える石井さん(左)=2月7日、那須塩原市板室
石井ぶどうのブドウ畑を視察する一行=2月7日、那須塩原市板室
石井ぶどうのブドウ畑を視察する一行=2月7日、那須塩原市板室
「イタムローニュ」など石井ぶどうのワインを試飲する一行=2月7日、那須塩原市板室
「イタムローニュ」など石井ぶどうのワインを試飲する一行=2月7日、那須塩原市板室

 午後2時ごろに着いたのは、那須岳の南裾野にある那須塩原市板室の「石井ぶどう」。標高約600メートルにあるブドウ畑の気温はマイナス1度。寒風が頬を刺した。代表の石井晶(いしいあきら)さん(41)は夫婦でワイン好きだったことから脱サラして就農を決意。ワイン造りを目指す中、16年に耕作放棄地でブドウ栽培を始めた。生計を維持するため、巨峰やシャインマスカットの生食用0・3ヘクタール、ワイン用ブドウ0・6ヘクタールを栽培し、ワイズ・ヴィンヤーズとCfaバックヤードワイナリーに醸造を委託している。石井さんは27年10月の操業を目指して醸造所に改修する元養蚕建屋を案内した。

 「itamurogne(イタムローニュ)」「jajauma(ジャジャウマ)」2ブランドの試飲が行われた。岩崎さんは「現状ではシャルドネが最も光る。愛好家に受ける酸があり、醸造法によってはかなりレベルの高いものが生み出せる」と期待した。石井秀樹さんは「ピノノワールなどもしっかりとしたアロマがあり、これから研ぎ澄まされて楽しみなエリアだと思う」と添えた。

 酒類業界記者はこの2カ所を視察して帰京したが、「栃木のワイナリーというと真っ先にココ・ファームが浮かびます。ココ・ファームは評価も人気も高いワイナリーですが、有名であるがために栃木という土地と結び付けて見ていなかった」と振り返った。その上で「栃木県内でもワイナリーが増え、栃木のワインやワイナリーの特徴を土地で語る、語られる準備ができてきたと感じた」と感想を語っている。

ワインを試飲して感想を述べ、意見を交換する視察者と吉村さん夫妻(左)=2月8日、宇都宮市新里
ワインを試飲して感想を述べ、意見を交換する視察者と吉村さん夫妻(左)=2月8日、宇都宮市新里
「ヒノエワイン」を試飲する視察の一行と吉村夫妻(右)=2月8日、宇都宮市新里町
「ヒノエワイン」を試飲する視察の一行と吉村夫妻(右)=2月8日、宇都宮市新里町
ヒノエワイナリーで醸造されたワインのラインアップ=2月8日、宇都宮市新里町
ヒノエワイナリーで醸造されたワインのラインアップ=2月8日、宇都宮市新里町

 8日は県央地区。前夜、降雪があり、宇都宮市でも約15センチ積もったが、同市新里町の「Hinoe Winery(ヒノエ・ワイナリー)」から巡った。吉村潔(よしむらきよし)さん(48)が10年に就農し、14年にブドウ栽培を始め、妻の慎子(のりこ)さん(46)も携わるようになった。23年、同市で初めてワイン醸造免許を取得。現在、7千リットル強、約1万本を生産している。

 鈴木さんは甲州のアンバー・ワイン(オレンジワイン)について「とてもきれいな緋色で、オレンジや紅茶の香り、テイストはうま味とコクがあり、素晴らしい」と称賛した。一方、山ブドウを合わせた赤ワインについては少し酸化のニュアンスを感じ、空気接触の課題克服を助言した。

醸造所施設でワイン醸造について製造担当の荒井誠之さん(右)から取り組みを聞く一行=2月8日、鹿沼市下奈良部町
醸造所施設でワイン醸造について製造担当の荒井誠之さん(右)から取り組みを聞く一行=2月8日、鹿沼市下奈良部町
栽培・製造担当の荒井誠之さん(左)から「かぬま里山わいん」をグラスにそそいでもらう鈴木さん=2月8日、鹿沼市下奈良部町
栽培・製造担当の荒井誠之さん(左)から「かぬま里山わいん」をグラスにそそいでもらう鈴木さん=2月8日、鹿沼市下奈良部町

 続いて「かぬま里山わいん」(鹿沼市下奈良部町)を訪れた。ホームセンターなどへの苗木販売が本業だけに、一行は約3・2ヘクタールのブドウ畑の管理が行き届いている様子に感心した。06年から委託醸造で行われてきたワイン事業だが、18年に自社醸造に切り替え、現在、約2万本を生産する。宇賀神喜一(うがじんきいち)会長(77)から話を聞いた。

 鈴木さんは「ワインは飲みやすく軽快。和食にもよく合う。いちごワインはマンゴー、いちごジャムの香りがしておいしい」と評価した。岩崎さんも「地域に愛されるワイン造りという点が徹底されている」と理解した。

 石井秀樹さんは県央2ワイナリーについて「どこかホッとするような味わい、県北のワイナリーにない熟した果実のふくよかな香りとそれを包み込むような酸味があり、普段の食卓で楽しめるフレンドリーな味わいが印象的」と評した。

ブドウ畑の整備や醸造所建設構想を語る高山源樹さん(中央)=2月8日、益子町大羽
ブドウ畑の整備や醸造所建設構想を語る高山源樹さん(中央)=2月8日、益子町大羽

 最後に巡ったのは、繁忙期にココ・ファームで研修を積みながら益子町大羽で5年後のワイナリー開設を目指してブドウを植え、畑を広げている高山源樹(たかやまげんき)さん(30)だ。高山さんは高校2年時、手仕事と芸術に憧れ、イタリアに渡った。さまざまな手仕事に触れたが、多くが上流階級を見ており、実生活になじむものではないと感じた。しかしワイン造りは違った。生活の中に混在し、自然と人間の関わりから出来上がるものづくりであることに心を引かれたという。コロナ禍を機に帰国し今日に至る。

 高山さんは益子町でワイン造りに取り組むことについて「濱田庄司は益子の土は決して一級じゃない、だから自分の人生で何とか表現できたといったことを言っている。ワインにとってもこの地は一等地ではないと思う。この言葉を借りるなら、自分なりの表現がある程度のところまで行ける可能性があると思っている」と展望する。しっかりとしたストーリー性に将来性を感じたのは私だけではなかった。

 視察を終え、石井秀樹さんは「栃木県内だけで『日本ワイン』の特徴を楽しめると感じた」という。「一概に言えないが」と前置きした上で、県北が好きなら、北海道、山形、長野、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ドイツ、オーストリアなどクールクライメート(冷涼気候)エリアのワインを感じることができる。県央が好きなら、山梨、長野、ボルドー、ロワーヌ、カリフォルニアなどワインの特徴を楽しめる。県南が好きなら関東以南、南仏、スペイン、イタリアなどのワインの特徴に触れられるのではないかという。

 こうした発想は私ではとても出てこないが、ワイン好きには大いに参考になり、新たな発見に遭遇するきっかけになるのではないかと感じる。栃木のワイナリーを巡ることで、栃木ワインの魅力、楽しみ方にぜひ触れてほしい。

(伊藤一之)