円環状のJR山手線を反時計回りに走る「内回り」の電車は、新宿駅の次に代々木駅(東京都渋谷区)へ停車する。周辺は予備校や専門学校が集まる「若者の街」でにぎやかだが、駅前を離れれば静かな住宅街に画家や作家など文化人ゆかりの場所がひっそりと残る。
西口の改札から出て交差点を渡り、駅の方向を振り返る。線路の向こうに見えるのはNTTドコモ代々木ビルだ。米ニューヨーク市のエンパイアステートビルに似た細身のシルエットが青空に映え、周囲を圧倒するようにそびえ立つ。駅舎は白い箱のような外観でシンプルの極み。
一方、東口の古びた入り口にはアーチ状の屋根がかかり、レトロな風情に心が和む。目と鼻の先には「代々木ブロードウェイ」と名付けられた飲食街があり、ニューヨークの街角を連想させる屋外装飾が目を引く。
駅から南西へ向かう道を歩いていくと、右側に国文学者高野辰之の住居跡を示す標柱があった。彼が作詞した唱歌「春の小川」は、自宅近くの景色をモチーフにしたといわれる。
道の反対側から少し入ったところにある区立代々木山谷小学校の辺りは、日本画家の菱田春草が晩年を過ごした場所だ。
さらに西へと進み、高速道路の下をくぐった先に「岸田劉生が描いた切通しの坂」と書かれた標柱が立つ。「麗子像」などで知られる洋画家岸田の「道路と土手と塀(切通之写生)」(1915年、重要文化財)は、当時の住まいから近いこの坂道で描かれたという。
小学校の北東にある代々木にある自然主義文学の旗手、田山花袋の「終えんの地」にも足を向け、駅へ帰る頃にはすっかり日が落ちた。高架線のガード越しにドコモのビルを見上げると、ライトアップされた先端が青や紫に輝いていた。
【メモ】駅の北西、新宿区との境界付近には、かつて玉川上水が流れていたことを記念するモニュメントがある。
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