宇都宮市は2026~30年度の5年間の中期財政計画を8月に公表した。試算では、物価高騰などを背景に一般会計が毎年32億~65億円程度の歳出超過になる見通しだ。計画で歳出超過が示されるのは初めてで、県内屈指の財政力を誇る市が、厳しい局面に直面している。
来年度の予算編成が本格化する中、市民サービスが低下しないよう市は事業を見極め、持続可能な財政構造を確立すべきだ。方策として打ち出した自主財源の拡大や事業の選択と集中の徹底、事業自体の再構築といった取り組みを着実に進めてほしい。
歳出超過の最大の要因は人件費や物件費といった消費的経費の増加にある。賃上げが進む中、職員などの人件費は本年度324億円。計画期間中も増加傾向にあり、30年度には376億円に膨らむ。物件費も施設の維持管理費などが増え、同年度は360億円を見込む。
さらに歳出全体の3割を占める子育て、教育、福祉などの扶助費が同年度には752億円まで拡大する。高校3年生までの医療費無料や、保育士の処遇改善などを図る保育施設の運営費といった市独自の支援を含む施策は多い。
こうした消費的経費の財源の柱となるのが市税収入で、26年度には1千億円を突破する見通し。市は本年度、国から交付税を受けず財政運営ができる不交付団体になった。26年度以降も税収増を見込むが、それでも歳出が歳入を上回る。改革は待ったなしだ。
財政の硬直化は進み、昨年度の市の経常収支比率は96・4%と目標の80%台から大きく遠ざかった。少子高齢化が進み社会的弱者が増える中、社会の安定と発展には行政サービスの質を守り充実を図ることが必要だ。自主財源の確保に知恵を絞ってほしい。
今後、次世代型路面電車(LRT)のJR宇都宮駅西側延伸や同駅西口整備など大型事業も本格化する。国庫補助などを活用するとともに、市債を財源にして事業費を複数年度に分散できるとはいえ、事業費抑制は必至だ。何より市債は借金であり将来世代への負担。公債費負担比率は目標の15%以下を下回る12%程度で推移するといい、これをぜひ堅持してほしい。
未来への投資を進めつつ、いかに財政の健全性を維持するか。市民が納得できる税金の使い道を示すべきである。