黄色ブドウ球菌は伝染性膿痂疹(とびひ)を起こす菌ですが、浅い傷の化膿(かのう)だけでなく、食中毒を起こすこともあります。黄色ブドウ球菌には多くの種がありますが、その中に菌が増えるときに毒素を産生する菌がいて、その毒素が、食べ物と一緒にヒトの口に入ると毒素型の食中毒を起こすのです。

この毒素型の食中毒は潜伏期が短く、平均3時間(1~5時間)で激しい嘔吐(おうと)と下痢、腹痛にみまわれます。治療は基本的には水分補給や輸液などの対症療法です。下痢止めは使用しません。
では、黄色ブドウ球菌食中毒の予防のポイントを示しましょう。まず、黄色ブドウ球菌は皮膚や鼻の穴、喉粘膜上にも存在しますが、特に皮膚の表皮の傷の化膿創に多くいるので、手指に傷がある人は調理に携わらない、または絶対に素手で食品などにふれないことが大事です。普段からの調理時の手洗い励行はもちろんのこと、調理器具などの洗浄、殺菌も肝要です。
また、黄色ブドウ球菌は食品を60度以上、30分以上加熱すると菌自体は死滅しますが、すでに産生されてしまった毒素は熱に強く、100度で30分加熱しても不活化されません。加熱処理しても毒素は健在ですから、毒素が存在する食品を加熱して食べても食中毒を起こすことになります。
ですから、まずは食品にこの菌を付けないこと、また増やさないこと(毒素を産生させないこと)、口に入れないことがポイントになります。
おにぎりやお弁当、調理パンなどでの事故の報告が多いです。黄色ブドウ球菌が付着している食品を室温で放置すると、食品の栄養と水分を利用して菌がどんどん増え、毒素もさらにどんどんと産生されてしまいますから、食品を室温に放置せず、低温管理をするなどの基本を順守することです。
そもそも、日本はおはぎ、いなりずしなど、手で直接触れるソウルフードが多いですね。手指に傷がある時には、思い出してください。

おかだ・はるえ 医学博士。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演や執筆活動を通じて、感染症対策の情報を発信している。