東京スカイツリーの足元に広がる東京都墨田区向島周辺には、伝統工芸の工房や店舗が点在する。職人らが1978年に都内でいち早く伝統工芸保存会を発足させた物作りの街は、外国人観光客の注目も集める。クラフトマンシップに触れようと出かけた。
東武伊勢崎線曳舟駅から住宅地を抜け、箸を扱う工房兼ショップ「大黒屋」へ。食器問屋の営業マンから箸職人に転身した竹田勝彦さんが87年に創業、「箸という道具を、人に合わせて使いやすくしたかった」と話す。
黒檀などの銘木を八角や七角に削った箸が人気だ。つまみやすいように機能性やデザインを追求し、手仕上げする箸を竹田さんが「江戸木箸」と命名。食への関心が高いフランス人観光客が好むそうだ。
水戸街道を渡り、「塚田工房」を見学した。桐塑の胴体に布地を貼り、衣装を着せたように作る「江戸木目込み人形」の専門店だ。7代目人形師塚田真弘さんはこの日、「力士ペーパーウエイト」を制作していた。胴体の細い溝に接着剤を付け、布をペン型ナイフで隙間なく入れる「きめこむ」技法で、力士のふっくらした肌が出来上がった。
工房内には、柔和な笑みのひな人形「孔雀雛」など力作を展示するコーナーも。面相描きをした塚田さんは「見た人の心がほっこりする人形を作りたい」と話す。
斬新なびょうぶがあると聞き、とうきょうスカイツリー駅近くの「片岡屏風店」を訪れた。展示スペースで、現代アートや写真を使って仕立てた「コラボレーション屏風」を紹介。米国人の男性観光客が、オーダーメードのびょうぶをインテリア用に注文していた。
同店は、小ぶりな金びょうぶで、お気に入りキャラクターのアクリルスタンドを引き立ててみては、とも提案する。「伝統的な調度品が持つ機能や美を現代風に世界へ発信したい」と3代目社長片岡孝斗さんが語った。
【メモ】大黒屋で制作販売する長さ26センチの七角箸は、大相撲の元横綱白鵬が愛用したという。