では現代における角打ちの魅力は何だろう。時間帯に制約されず日中から気軽に飲める、リーズナブルな価格で楽しめる、酒好きな人と交流できる、そして飲み比べが容易にでき、気に入ればその酒を購入できることだ。私は手軽に飲み比べできることに魅力を感じる。

 2024年1月、県内の地酒を試飲できる県酒造組合事務所内の施設「酒々楽(ささら)」が事務所移転に伴い閉館した。組合員29蔵の日本酒約60種をほぼ原価で飲み比べでき、あの蔵のこの酒はこんな香り・味わいがするんだと、新たな発見を楽しめた。組合は再興を検討したが、採算面から困難と判断。「嶋田屋酒店宮みらい店」は、その狙いを受け継いでいる存在と言えるだろう。

常連客と地酒商品の味わいを紹介する嶋田社長(左)=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗
常連客と地酒商品の味わいを紹介する嶋田社長(左)=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗

 娘婿として嶋田屋本店に入った嶋田雄二(しまだ・ゆうじ)社長(51)は、鹿沼の本店が旧市街地にあった頃、木工業が盛んな鹿沼には木工職人が大勢いて、職人らが帰宅の際、店に立ち寄って「もっきり(角打ち)」を楽しみ、にぎやかだった話をよく聞かされた。宮みらい店出店を決めた時から「飲んで買える、買って飲める」店として角打ち営業を決めていたという。

 嶋田社長は角打ち営業の狙いについて「現在は目当ての酒をネットでどこからでも購入できる時代。だからこそ逆にお客さまに損(失敗)させたくない。角打ちで試飲し、スタッフと話をして蔵元・造り手の考えなどスペック(原料米や精米歩合、アルコール度数、日本酒度など)では分からないお酒の真の情報を得てもらい、納得して購入いただけることが必要だ」と強調する。スタッフには提供する酒を試飲して勉強し、お客に十分説明できるよう徹しているという。

グラスに用意できた注文の酒を案内するスタッフ=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗
グラスに用意できた注文の酒を案内するスタッフ=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗

 宮みらい店は2022年8月にオープン。スペースの関係から酒類物販中心で、角打ちコーナーは5人程度でスタートした。しかし今春、隣接店舗が空いたことから待望の角打ち専用店舗を新設し、4月末に開店した。

 角打ち専用店舗は通路側を全面開放して明るくし、女性1人でも気軽に入れる雰囲気をつくった。周りにカウンターを巡らせ、立ち飲み用テーブルは中央に四角のもの、通路側には2~3人が囲める丸いものを配し、計20数人が利用できるようにした。

 メニューは県内28蔵から日本酒銘柄を選べる純米酒飲み比べ3点セット(60ミリリットルずつ、1200円)、単品グラス(90ミリリットル、600円から)があるなど「栃木県」を全面に出した。このほか県内外の日本酒、ワイン、ビール、ウイスキーなど酒類、アペタイザー(前菜)、つまみも注文できる。人気があることから滞在時間は1時間制だ。

 9月中旬には32種のお酒がワンコインで飲めるSAKEサーバーのサービスも始まる。県内の26蔵元の日本酒のほか県内3ワイナリーのワイン6種を選べる。1枚300円のコインを1枚入れると、30ミリリットルが出る。角打ちしながら、より多く銘柄・種類を試飲するには最適だ。

9月中旬にサービスが始まる栃木地酒のSAKEサーバー=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗
9月中旬にサービスが始まる栃木地酒のSAKEサーバー=29日夕、嶋田屋酒店宮みらい店角打ち店舗

 宮みらい店「角打ち」の盛況ぶりについて嶋田社長はこうも話す。2月と11月に東京・上野恩賜公園で開かれる「酒屋角打ちフェス」に昨年から出店している。3日間の来場者は酒ファン約2万4千人に上る。そこに出店した都内の酒屋からは「栃木は隠れ新潟だ」とおいしい酒所として認識されていることを聞かされた。嶋田屋酒店が角打ちブースに栃木の地酒を並べると反響がすごかったという。「名があまり知られていない酒ほど先に出た。栃木にはいい酒があるということをファンは知っており、こういうときだからこそ知らない酒を飲んでみたいという思いなんでしょうね」。県産日本酒を全面に出した戦略が奏功していると確信する。

 嶋田社長は「酒屋の使命は酒蔵(醸造所)のよさを消費者の皆さんに伝えること。酒蔵はうまい酒造りに集中してもらい、われわれはそれをマーケティングして広く売る。角打ちはそれを行う最高のスタイルです。栃木県の酒の魅力を発信したい」と今後を期す。

 確かにこの角打ち専門店は立地といい、店舗の機能性といい、県産酒の魅力に触れるのには申し分ない。毎日、県産酒フェスティバルが開かれている感覚だ。今後も“栃木県酒類の体感型ショールーム”機能を強化してほしいし、県産酒類の新たな試み、可能性を高める舞台になることを願う。

(伊藤一之(いとうかつゆき))

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