東京・日本武道館で歌うano=9月3日(横山マサト氏撮影)

 東京・日本武道館でパフォーマンスするano=9月3日(横山マサト氏撮影)

 東京・日本武道館で歌うano=9月3日(横山マサト氏撮影)  東京・日本武道館でパフォーマンスするano=9月3日(横山マサト氏撮影)

 テレビのバラエティー番組でおなじみの「あのちゃん」が、アーティストのanoとして唯一無二の輝きを見せた。自身初の東京・日本武道館公演「呪いをかけて、まぼろしをといて。」で、360度ぐるりと客席に囲まれたステージに立ち「大好きな歌を武器にぶん回して蹴散らしていく」と力強く宣言、約1万2千人の観客を熱狂させた。

 骨をモチーフにした大きな羽を背負い、水色と赤のドレスで現れたano。1曲目から代表曲「ちゅ、多様性。」を惜しげもなく歌い、ダンサーに囲まれて羽をゆらゆらと揺らしながら、ポップスターらしい華やかで確信に満ちたパフォーマンスを繰り広げた。

 中盤では白いワンピースに着替え、はだしでアコースティックギターをかきならしながら、アニメ「タコピーの原罪」のオープニング曲として話題の「ハッピーラッキーチャッピー」を歌唱。アニメの世界のような小学校の教室を思わせるしつらえのセットに、親密な空気が広がる。

 尾崎世界観が作詞作曲した「普変」では、スクリーンに「しゃべり方が苦手」「イライラする」といった自身への悪口を映し出し、天井からまき散らされたアンチコメントの紙吹雪を手で払いのける演出でも沸かせた。

 アンコールで初披露したのは、武道館公演のために書き下ろした新曲「ミッドナイト全部大丈夫」。「おじさんが建てたビル」「若者が飛び降りるビル」。どきっとさせる歌詞は、生きづらさを抱えた若者の心象と響き合う。強烈な歌詞とは裏腹に、anoはあくまで優しい歌声で「今だけ逃げ出してさ 大丈夫」と、語りかけるように歌う。

 「僕は、もう一人の自分から『おまえは笑うな、おまえは幸せになるな、おまえは普通じゃないから』と言われるような感覚と、ずっと生きてきた」。アンコールのMCで、自分にかけた“呪い”を打ち明けたano。

 テレビに引っ張りだこになっても、彼女は華やかな画面の中で時にどこかぎこちなく、ポツンと浮いているようにも見える。アーティスト活動に邁進しても、その独特のしゃべり方やキャラクターゆえに批判されることも少なくない。「いつも敵ばっかだなって思って生きてるんですよ、やっぱり」

 原動力は「復讐したい、見返したい」という思いだったと言い切る。だが、その復讐は、気付けば武道館を埋めるほどのファンの共感を呼ぶようになった。ライブでは涙をこぼし、うつむくことも多かったanoだが、この日は大勢のファンを前に「少しは復讐が果たせたかな」と、安堵したような表情を浮かべた。

 「あなたたちが死にたいと思った時、消えたいと思った時、逃げたいと思った時、死ななかったから、死ぬことを諦めてくれたから、今、僕は君と一緒にいる。死ぬことを諦めてくれて、生きてここまで来てくれて本当にありがとう」

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 anoは誕生日に当たる9月4日、自身が作詞作曲した両A面シングル「呪いをかけて、まぼろしをといて。」をリリースした。1曲目は「KILL LOVE」、2曲目は前日の武道館公演で初披露した「ミッドナイト全部大丈夫」。