平坦(へいたん)な大地と澄んだ水、豊かな日照量に恵まれた栃木県は食材の宝庫。食卓の笑顔に欠かせない、新鮮でおいしい農畜産物が県内各地で生産されています。JAグループ栃木は、「食」を通じて県民一人一人に健やかな生活を送っていただけるよう、安全・安心な農畜産物の提供、地域社会への貢献など多彩な活動を展開しています。今回は18日に引き続き「TPP特集」として、食の安全や、医療など農業以外の分野をテーマにお伝えします。(企画・制作 下野新聞社営業局)

 玄葉光一郎(げんばこういちろう)外相は1月19日午後、ワシントンで米通商代表部(USTR)のカーク代表と会談しましたが、米国側からは農業や自動車、金融サービスの業界から強い要望が出され、「米国産牛肉の輸入規制の撤廃」や「米国産自動車の輸入拡大」、「かんぽ生命の特権廃止」を求める声が上がっていることを帰国後に明らかにしました。今後、その他の米産業界からも、私たちの暮らしに直結するさまざまな要求が出されることが予想されます。

■米産業界から市場開放求める声

 事前交渉の米国側窓口となっているのは米通商代表部ですが、米政府が行った意見公募に米産業界からは「コメは関税撤廃の例外扱いとしない」、「優遇されている簡易保険や共済の特権を廃止すべき」、「軽自動車規格を廃止し、米国車の輸入を拡大せよ」といった厳しい注文が寄せられています。

 ▽軽自動車規格の廃止

 米自動車政策協議会は、日本の交渉参加により全米での販売競争が激化することから反対の立場をとっていますが、現在軽自動車を対象にした税制面での優遇措置について、適正な競争が阻害されるとの理由で、軽自動車規格を廃止すべきとの意見を寄せています。軽自動車は日本の自動車産業の技術の結晶であるとともに、日本の道路事情を反映したもので、米国の要求は筋違いではないでしょうか。また、複数年の輸入数量枠を設定して米国車の輸入を促進すべきという要望も出されているようですが、米政府がTPPの事前交渉でどのように日本側に要求してくるのか注視しなければなりません。

 ▽かんぽ生命の特権廃止

 米国の民間保険会社でつくる米生命保険協会は「民間企業との公平性を欠く」として、「かんぽ生命や共済の優遇措置をなくすべき」と意見表明しています。米国の保険会社が日本市場で自由に競争して事業拡大を図るためには、かんぽ生命や共済を支える事業基盤が障害となるため、その切り崩しを狙った要求といえます。例えば、かんぽ生命は全国のゆうちょ銀行の店舗ネットワーク上で宣伝できることから、米国の保険会社は競争条件が公平でないと主張しているのです。

 米通商代表部はこうした産業界からの要請を受けて、日本に対応を迫るものと考えられます。

■食の安全の認識に大きな隔たり

 ▽牛肉月齢制限の緩和

 米国は事前協議に入る前に、交渉への『入場券』としていくつかの要求を日本側に突きつけているようです。その一つに「輸入牛肉の月齢制限の緩和」があります。

 現在、米国から輸入される牛肉は「20カ月齢以内」の牛に限定しています。一般的には20カ月齢を超えると牛海綿状脳症(BSE)発症の危険性が増加しますが、米国では十分な検査体制が整備されていないので、安全性を確保するために月齢制限を実施しています。

 米国は30カ月齢以下でのBSE発症は報告がないことを理由に「30カ月齢」に緩和するよう要求していますが、そもそも日本のような全頭検査を実施していないため、真相が分からないというのが実態です。今でも輸入牛肉に危険部位が混入していたという報告がされますが、「食の安全」に対する認識には大きなズレがあるようです。

 ▽残留農薬基準の緩和

 日本の残留農薬基準は世界一厳しい水準です。ポジティブリスト制といって、全ての農薬成分について作物ごとに基準値が設けられています。基準値の目安になっているのは0・01ppmですが、過去に中国から輸入された冷凍ホウレンソウから検出されたことで話題となったクロルピリホスは、コメについて日本の基準が0・1ppmに対して、米国では8ppmとなっています。単純な比較はできませんが、残留農薬の基準は日米で大きな違いがあることは事実ですので、大幅な譲歩を求められる恐れがあります。

 また、輸入農産物には輸送中の防虫・防腐のために、収穫後に農薬が散布されることがありますが、ポストハーベスト(収穫後散布)は日本では認められていません。

 ▽遺伝子組み換え食品の非表示

 日本では、消費者が遺伝子組み換え作物(GMO)を使用した食品か、そうでない食品かを判別できるように、遺伝子組み換え作物を使用していることを表示する義務があります。米国では遺伝子組み換え作物の安全性が確認されているという理由で、日本のような表示義務はありません。TPPでは、米国にとって不利な条件の緩和が求められます。

■健康保険制度への影響を懸念

 暮らしに最も身近な医療の分野でも協議が進められています。日本の医療制度の特徴は、国民皆保険といわれる社会保険制度が確立されている点にあります。すべての国民が健康保険に加入し、保険料を負担し合うことにより、加入者は保険証があればどこでも医療が受けられる保険診療制度です。

 これに対して全額自己負担で治療を受けるのが自由診療です。米国では自由診療が基本ですから、民間の医療保険に加入して病気やけがをした時の医療費負担に備えることになります。しかし、世界最高峰の最先端医療の恩恵を受けることができる人は、高い保険料を支払うことができる「一握りの富裕層」だけです。米国では請求された高額な治療費を支払えずに自己破産する人や、民間の医療保険に加入できないために、満足な治療を受けられない人がたくさんいると言われています。

 ▽混合診療は交渉の対象外?

 保険診療と自由診療を併用する仕組みが混合診療です。現在、混合診療は日本では認められていません。米通商代表部は「混合診療はTPP交渉の対象外」と非公式に伝えてきました。しかし、医薬品規制の見直しなどは譲歩しない構えで、混合診療については、TPPとは別の枠組みで要求してくる可能性もあります。

 米国の民間保険会社は国内での市場拡大が見込めませんので、何としても日本市場をターゲットにしたいわけですが、日本の社会保険制度が邪魔になります。ですから混合医療の導入により、保険診療の切り崩しを狙うはずです。

 私たちはこれからも交渉の推移を注意深く見守っていくとともに、日本政府が誤った選択をしないように国民目線でチェックしていく必要があります。(JA栃木中央会・農業対策部)

読者の声 ~TPPに思うこと~

 ・日本がTPPに参加する必要性がないことが分かった。米韓FTAは韓国にとって不平等な内容。両国の力の差を見せつけられた思いがした。(71歳・男性)

 ・TPPで国内がメチャメチャになる不安が募る。東北の復興も、原発事故の収束もまだまだなのに急ぐ必要はない。国民に理解できる説明が必要だし、もっと国土を愛してほしい。(56歳・女性)

 ・昨年、マロニエプラザで行われた反対集会に参加した。情報不足は、その当時と変わらない。「国際社会に乗り遅れるな」の一点張りの主張では不安だ。JAが納得するまで政府は話し合うべき。消費者も物価が安くなれば良いという安易な考えはしないでほしい。(79歳・男性)

 ・少しずつ中身が分かってきた。今、日本の最大の課題はデフレの克服にある。内需の拡大に取り組むなどもっとやるべき方法がある。(60歳・男性)

 ・昨年3月11日から世の中が変わってしまった。農家の方々の心配がよく分かる。これ以上、日本の生活を変えないでほしい。(74歳・女性)

 ・これから成長する子どもたちに安心して食べてもらうことが大切。また高い医療費が掛かると、病院に行くことにもためらってしまうと思う。米国のメリットばかりのTPPには反対したい。(34歳・女性)

 ・米韓FTAを知り、日本がTPPに参加することが怖くなった。協議がどのように進められようとしているのか知りたい。(43歳・女性)

 ・もっと私たちにも、知らせるべき事実があるはず。政治家たちにしっかりしてもらいたい。(24歳・男性)

 ・何が何でも反対ではなく、チャンスととらえJAが主体となり考えてみてはどうか。何年先になるか分からないが(貿易自由化は)必ずやってくると思う。今から行動しないと遅れる。(58歳・男性)