国民生活に大きな影響
自給率向上のため国民的議論を

 WTO(世界貿易機関)農業交渉グループのファルコナー議長は4月30日、加盟各国に対し交渉を促進するための文書を示しました。これによりWTO農業交渉が大きく動き出すとともに、日豪EPA、FTA交渉と併せ、日本の農業の将来に大きな影響を与える重大な局面を迎えています。また、日豪交渉をにらみ、日米首脳会談において日米FTA交渉についても情報交換を本格化するとしました。

 ファルコナー議長の文書には輸入国からも、また輸出国からも不満の声が上がっています。日本にとっての大きな問題は、一般の品目より関税削減幅を小さくする重要品目の数を「1%超・5%以下」としたことです。日本の関税品目は1326品目ありますが、その5%は66品目になります。1326品目のうち米が17品目、小麦20品目、乳製品47品目あり、これだけで84品目と全体の5%を超えます。しかも、重要品目の対象となっても低関税での輸入枠の拡大が義務づけられており、海外の安い農産物の輸入が増えることにまります。

 ■ 穀物自給率は124番目 ■

 日本の穀物自給率は28%です。国内では米も含め穀物が1000万トン生産されていますが、輸入穀物は2600万トンに達します。輸入穀物で一番多いのはトウモロコシで、主に家畜の飼料として1625万トン輸入されています。最近は、食料以外のバイオエネルギーへの需要が増し、主産国の一つのブラジルではオレンジからトウモロコシへの転換や貴重な緑である熱帯雨林の伐採によるトウモロコシの作付け増加も見られます。

 ■ 世界最大の農産物純輸入国 ■

 日本の食料自給率は、カロリーベースで40%。日本人が消費する1日1人当たり平均2588キロカロリーのうち、国産農産物で賄っているのは1029キロカロリーしかありません。

 深刻な問題は、日本が輸入している2600万トンの穀物を生産するために、外国では640億立方メートルの水を使っていることです。これは日本の水田を主体にしたかんがい用水よりも多い。海外から食料を輸入することは、言い換えれば、その栽培に使った水を輸入したとも言えます。はたして、現在のように外国から食料や水を無制限に輸入して良いのでしょうか。世界には飢餓に苦しむ人々が8億人もいます。できるだけ国内で食料を自給し、こうした人々に少しでも多くの食料が届くようにするのが、私たちの責任です。

 ■ 食料自給率さらに低下も ■

 農林水産省は今後の貿易交渉で、もし全農産物の関税が撤廃されると、日本の農業生産額は3兆6000億円減、食料自給率(カロリーベース)は12%に大きく下がり、国内総生産も9兆円減って375万人が失業するという試算を示しました。国民生活に大きな影響を与えるものと言えます。

 しかも土砂崩れや洪水を防ぎ、水資源を守っている農業の多面的機能(年間約8兆2200億円 2001年日本学術会議評価額)の維持も困難となり、政府や地方自治体による国土保全に対する投資を増やす必要が出てきます。潤いや安らぎを提供する環境資源にも影響を及ぼします。これらを考慮すれば、経済合理性や貿易立国論、世界的規模での分業論などの自由化論で軽々に農業を論じるには問題は大き過ぎます。農業者や農業関係者だけでなく、多くの国民が関心を示し、議論すべき重要課題です。


FTA、EPAとは FTA(自由貿易協定)は特定の国や地域との間で関税の撤廃などにより貿易自由化を進める2国間あるいは地域間の協定のこと。EPA(経済連携協定)はFTAを基礎とし、より幅広く経済的な関係強化を図る2国間あるいは地域間の協定のこと。最近では投資、人の動きや知的所有権などさまざまな分野を含んでいます。

 [写真説明]雄大な羽黒山が望める田園地帯。EPAなど今後の交渉次第では、このような美しい風景にも影響を与えかねない=5月5日、塩谷町大久保


 コラムオアシス 緑の大地

 今年は、雪が少なかったために水不足が懸念されました。水不足が心配になり田植え時期を調整された方が多かったと思います。しかし、大型連休後、県中・北部は田植えがほぼ終了し、水田が緑一色になった光景は何とも言いえません。街中の信号や騒音の中をいらいらした気持ちで車を走らせた後、自然豊かな田園地帯をさわやかに走ると気持ちが和むのは皆同じでしょう。

 この緑豊かな田園が今損なわれようとしております。5月2日の日本農業新聞の一面に「WTO議長文書『大幅自由化促す』」の大きな見出しが報道されました。その内容の1つは、関税全品目(1326品目)のうち重要品目は『大幅な関税引き下げ1%から5%が想定される着地点』とするものです。コメだけでも17品目ですから、もしこの主張に応じたとすれば主食であるコメをはじめ日本の農業は崩壊の危機に瀕します。

 農水省の試算では40%の自給率が12%まで下がるとも言われております。このことを国民全体でよく考え、しっかりと日本農業を守るよう政府に要請しようではありませんか。私たちは緑豊かな大地を守り続け、そして次の世代に引き継いで行かなければならないと思います。

(JAバンク栃木信連会長 伊澤茂)