震災で福島から移住荒地を開墾して栽培
栃木県内のキウイ栽培は、小山市や大田原市、那須塩原市などが主産地ですが、那珂川町でも栽培されています。東日本大震災後、福島県須賀川市から那珂川町富山に移住した上杉正広さん(72)もその一人。現在、地元の道の駅ばとうやJAなす南の直売所「とりたて野菜直売所」(那須烏山市)、大田原市内の大型直売所などに、収穫したばかりのキウイを出荷する作業で大忙しです。

上杉さんが那珂川町に引っ越しを決めたのは、震災翌年の2012年。被災した原子力発電所からの放射能被ばくを恐れ、妻の美佐子さん(71)ら家族4人で故郷を離れました。営業マンだった上杉さんの定年退職とも重なり、「新しい場所で趣味の果樹栽培を職業にしたい」と一大決心。福島の自宅で栽培していたブルーベリーを移植したほか、「気候も適しており、栽培がそれほど難しくない」と挑戦したのがキウイ栽培でした。

住まいは、山あいを流れる富山川沿いに新築し、隣人所有の畑地を借り受けました。篠や葛などが2、3メートルも生い茂る耕作放棄地で、イノシシが掘った穴があちこちにあったそうです。3年ほどかけて整地し、16年春、6、7本のキウイの苗木を植えることができました。
こだわりの有機栽培新品種開発にも意欲
それから8年。現在、キウイ畑は2カ所で計20㌃ほど、キウイの木も約70本に増えました。品種はすべて、甘さが特徴のゴールド系。スーパーなどの店頭にはほとんど並ばない品種で、甘みが一段と強い「紅妃(こうひ)」や、「レッドゴールド」、「ジャンボレッド」、「アップル」、「東京ゴールド」など8種類を栽培しています。
こだわりは化学肥料を一切使わないこと。「鶏糞の有機肥料を使っています。生産者として安心安全を提供したい」と力を込めます。収穫は10月下旬から約3週間。冷蔵庫で保存ができ、翌年春まで出荷できるそうです。

今一番の関心事は、偶然育ったという二つの新品種。「2品種とも畑の中で『実生(みしょう)』から育ち、とにかく甘い。これからどんどん育て、JAの協力を得て、この地域の特産品にしたい」と意気込み十分です。
上杉さんのキウイについて、JAなす南とりたて野菜直売所の神長好誠さんは「人気があります。種類もたくさんあるので、いろいろな味が楽しめます」と話します。東京の高級フルーツ店やネット販売では高価な紅妃などのキウイを、直売所などで手ごろな価格で手に入れてみてはいかがでしょうか。
お問い合わせは、JAなす南営農部園芸販売課☎0287・96・6170。