「牛に胃袋が四つ、乳房も四つあると知って驚く子どもばかり。先生が知らなかったこともありますよ」

 那須町高久甲で「那須高原今牧場」を経営する今(いま)耕一(こういち)さん(62)は、そう言って破顔一笑しました。

 ホルスタインの搾乳牛を常時100頭以上飼養している同牧場では、10数年前から町内を中心に県内小学校の社会科見学を受け入れています。2003年には、中央酪農会議が「教育を行うのに適正な牧場」を認証する「酪農教育ファーム認証制度」の認証牧場にもなりました。毎年、児童ら約200人が訪れ、酪農体験を通して「食といのち」の関係性や、その大切さを学んでいます。

 また、関東7県の認証牧場の仲間たちと協力して東京都内の小学校に牛を連れて行く「出前授業」も数多く実施してきました。

 今さんは「酪農家がいかに安全安心で良質な生乳づくりを心掛けているか、現場を見れば分かっていただけると思います」と強調します。

 本県の生乳生産量は1999年以降、北海道に次ぐ全国第2位、本州ナンバーワンの座を守っています。那須塩原市、那須町など県北地域を中心に約5万3千頭の乳牛が飼育されており、年間約30万トンの生乳を生産。夏の猛暑や東日本大震災、福島第一原発事故の影響を受けた2011年には30万トンを割り込みましたが、昨年は約30万5千トンと回復しました。

 ▽「ミルクの国」をPR

 ただ、全国的に牛乳の消費は減少傾向にあります。このため、県牛乳普及協会では、「ミルクの国とちぎ」を掲げ、小学生絵画コンクールや牛乳・乳製品を使った料理コンクールの開催などを通して消費拡大に取り組んでいます。八木(やぎ)沢(さわ)孝一(こういち)事務局長は「牛乳は良質なタンパク質、カルシウムなど大切な栄養素を含んでおり、子どもの成長や長寿社会の実現に欠かせない飲み物です。今後もそうした健康食品としての特性をPRしていきます」と話します。

 ▽チーズに加工、販売

 こうした中、新たな動きとして注目されているのが生乳の生産だけでなく加工、販売まで手掛ける「6次産業化」です。那須町では「那須ブランド」にも認定されている「桃井牧場の手作りアイスクリーム」が有名ですが、今牧場が昨年4月、牧場内に自家生乳を使った「チーズ工房」をオープンさせたことで大きな話題となりました。

 工房を運営するのは今さんの次女夫婦の高橋雄幸(たかはしゆうこう)さん(34)とゆかりさん(33)。それぞれドイツとイタリアで修業を積んだチーズ職人で、牛乳製のチーズだけでなく日本ではまだ珍しいヤギのチーズも製造、販売しています。

 今さんにとって、長年続けている体験学習受け入れも、6次産業化への挑戦も、共通した強い思いから始まったものです。「『消費者あっての生産』を常に忘れないようにしたい。観光とのマッチングなどを通し、率先して消費者の理解を求めていくことで、酪農の応援団が少しでも増えてくれればうれしいね」

◇◆◇ 雑学辞典 ◇◆◇

  • 生乳と牛乳類 「牛乳」は、生乳100%で熱殺菌しただけの飲み物。常に一定以上の品質を保つために、「乳および乳製品の成分規格等に関する省令」で牛乳の成分は無脂乳固形分8%以上、乳脂肪分3%以上と決められている。「加工乳」は、生乳や乳製品(バター、クリーム、脱脂粉乳など)を原材料として加工製造した飲み物。「乳飲料」は、生乳や乳製品以外にコーヒー抽出液や果汁を原材料に加えた飲み物

  • 均質化(ホモジナイズ) 牛乳の消化吸収を高めるとともに、クリーム状成分が上方にたまるのを防ぐために、乳脂肪中の脂肪球を細かく砕き、安定した状態にすること。日本では、ほとんどの牛乳が「ホモジナイズミルク」として販売されている


 コラムオアシス コラムオアシス/出資法人の設立/次代へつなぐ事業展開を

 不耕作農地等を増やしてしまった1970年代から始まった生産調整、主食である米が経済合理主義にさらされた2004年からの改正食料法、国家政策で実施された07年の品目横断的経営安定対策、そして10年からの農家戸別所得補償制度、11年未曽有の東日本大震災・原発事故、そして菅内閣当時唐突に参加表明され、財界や一部エコノミストの論理に世論が誘導されているTPP参加問題など、常に農家は自然や国家政策に翻弄(ほんろう)されてきました。宮沢賢治の詩ではないですが、いつも百姓は「おろおろ」するばかりです。

 昨年はJA全国大会・県大会で「次代へつなぐ協同3か年計画」の策定と実践が決議されました。その背景には、改正食料法以降、特に米・麦等農産物価格の低迷に対し、生産資材の価格高騰が農業収益の悪化を招き、販売農家が激減してしまったことがあります。

 こうした中、当JAでは次世代組合員の確保対策を図ると共に、農地保全・管理・受託などを実施するため、出資法人を設立しました。営農・生活事業展開の課題を踏まえて、今後さらに信頼され存在感のある事業展開に努力したいと思います。農村・農業は経済合理主義や政治理論だけでは割り切ることのできない、人間が生きて行くための食料や環境など大きな自然の論理が必要であることの理解を深めつつ、協同組合運動にまい進したいと考えます。

(JA佐野 代表理事専務 木村弘一)


 [写真説明]かつて農林水産祭で天皇杯を受賞するなど優れた酪農経営で知られる今さん
 [写真説明]生乳から牛乳や各種チーズが作られる