国内に未曽有の被害をもたらした東日本大震災。県内も被害に遭い、農畜産物だけでなく農地や農業用施設などにも影響が出ています。さらに東京電力福島第一原発事故の事態は予断を許さない状況にあり、福島県だけでなく隣県の農業にも放射能汚染による農作物の出荷がストップする事態が生じました。県産農産物のすべての安全性が確認された現在でも、それらに対する「風評被害」は続いている状況です。JAグループ栃木は、安全・安心なとちぎの農作物を消費者にアピールするとともに、行政などに対し風評被害への対策を働きかけています。

 [写真説明]田植え

■県内農畜産物の安全性を確認

 東日本大震災による栃木県内の農業関係の被害総額は、県農政部のまとめによると106億9300万円に上りました。農作物(畜産・水産物含む)だけを見ても10億円を超える被害を受けました。

 さらに、東京電力原発事故の放射性物質の拡散により、暫定基準値を超えた品目(ホウレンソウ、かき菜、春菊)の出荷が制限されました。制限による被害額は、JAグループ栃木「東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策県協議会」(会長・髙橋一夫JA栃木中央会会長)の算出によると2億6900万円(ホウレンソウ約1億8600万円、かき菜約3300万円、春菊約5000万円)となっています。

 現在は、県の放射性物質モニタリング検査により、イチゴ、トマト、ニラ、ネギ、キュウリ、ナス、レタス、ウド、アスパラガス、春菊、かき菜、みずな、シイタケ、ホウレンソウ、牛乳の15品目の安全性が確認され、通常に出荷できるようになりました。しかしその間、放射性物質の拡散に伴う風評被害は続き、同協議会のまとめ(4月27日発表)によると、価格下落による被害額は14品目合計で9億3200万円に上っています。

 原発事故から2カ月が経過し、風評被害による価格下落も持ち直してきたようですが、生産農家の間では「原発事故が収束しなければ安心できないし、まだ自粛ムードによる買い控えも続いているのでは」など不安視する声が残ります。

■全力を尽くす生産現場

 今回の大震災では、県東部で大きな被害がありました。JAはが野では、芳賀町内のトマト選果場が被災し使用不能になるなど、県内のトマト関連だけで5億円以上の損害を受けました。毎年9月下旬から6月までの長期にわたって出荷する越冬トマトの作型専門部(12人)のあるJAうつのみやでも、震災直後の停電などの影響で、最盛期のトマトが「全滅」してしまった生産者がいました。

 全電動だったハウスの機能が停電でストップし、3割以上の苗が凍害で枯れる損害を受けた部会長の古口雄一(こぐちゆういち)さん(37)=上三川町東蓼沼=は、「これからという季節に…。辛かった」と振り返ります。大震災と原発事故の翌週からは、風評被害などにより市場価格が急落し「2週間ぐらいは悲惨な状態」が続いたそうです。

 しかし、古口さんは「私たち栃木の農家はまだマシですよ。福島、宮城の仲間はハウスだけでなく家も流されたりと農業が続けられないほどの打撃を受けています。日本の農業、そして日本が危機的な状況にある中で、一人一人が『いま自分に何ができるか』を考え全力で努力することが必要だと思います。だから、私たちにはトマトを作っていくしかありません」と言います。4月には生産者有志とともに、宇都宮市内の避難所にトマトを届けました。

 越冬トマトは6月で出荷を終え、7月から来シーズンに備えます。同専門部会は、ハウスが全滅した部会員のために、苗購入資金の支援を行うなど、互いに助け合い産地の明日のため新たなスタートを切ります。

 JAグループ栃木は、被災、風評被害に遭った生産者を支援しようと損害賠償請求の対応に加え、緊急つなぎ資金の提供などを行い農業経営継続のための対策を講じています。また、毎月の「けんちょうde愛ふれあい直売所」などのイベントに参加し、県産農畜産物を消費者にアピールしています。

 [写真説明]「全力でトマトを作るだけ」と語る古口さん=上三川町東蓼沼

■JA栃木/青年部連盟委員長/益子丈弘(ましこたけひろ)さん(36)/那須塩原市寺子

 我が家にも、地滑りなどでまだ田植えができない耕地が約3割ほどあり、震災の爪痕はまだ残っています。しかし、今まで以上に「国内の食を守らねば」という使命感が強まりました。農作業ができなくなった東北の皆さんの分まで頑張らねばなりません。消費者の皆さんには、丹誠した栃木のおいしさを利用していただき、栃木の農畜産業を応援していただきたいです。

 [写真説明]益子丈弘さん

■栃木県知事/福田富一氏/農業支援の輪拡大に感謝

 今回の原子力発電所事故に伴う放射性物質の拡散により、本県でも暫定規制値を超えた農産物の出荷制限が行われるなど、大きな影響を受けました。

 その後の調査により4月27日までに制限は解除されましたが、県では、今後もモニタリング調査を行い「安全な農産物以外は絶対に出荷しない」ことを徹底して参ります。

 また、消費者からの相談窓口の設置、首都圏の百貨店や鉄道会社等と連携したイベントの実施、けんちょうde愛ふれあい直売所でのキャンペーンなど、様々な場面で本県農産物の安全性のPRと正しい知識の普及啓発に積極的に取り組んでいるところです。

 このような中、本県産農産物を食べようという呼びかけや小売店におけるキャンペーンの実施など、自発的な取組が県内各地で始まっています。本県農業を支援する輪の広がりに、心から感謝を申し上げます。

 引き続き、県では、消費者に信頼される安全・安心、そして新鮮な農産物の供給を推進して参ります。是非、これからも四季折々の栃木県のおいしい農産物をお楽しみください。

 県民の皆様、力を合わせて大震災を乗り越え、元気な農業、元気なとちぎを実現していきましょう。

 [写真説明]福田富一氏

■JA栃木中央会会長/髙橋一夫/農業と食の大切さ再認識

 東日本大震災を踏まえ、被災地のみならず一時的な食料供給不足や原子力発電所事故による作付制限、風評被害の懸念等により、地域・国内生産を基本とした農業、食の安全・安心の重要性が再認識されたものと考えています。 

 県内の農作物、農業用施設、農地等も大きな打撃を受けました。また、原発事故による放射線物質の拡散に伴い、本県産農畜産物の安全性を確保するため、栃木県が農畜産物や土壌の放射性物質のモニタリング調査を継続的に実施しています。

 モニタリング調査の結果、栃木県より3月21日にほうれん草、カキナの出荷停止、25日にシュンギクの出荷自粛の要請を受け、JAグループ栃木は、安全な農産物以外は出荷しないことを徹底してきました。出荷停止は解除されましたが、風評被害により他の農畜産物の価格も暴落し、生産者の収入は大幅に減少、生産資材等の支払いや暮らしにも影響が出ているところです。

 こうした状況の中、JAグループ栃木は首都圏及び県内各地において栃木の農産物が安全・安心であることをアピールしています。今後とも、安全・安心な農産物の提供に全力で取り組んでまいりますので、消費者の皆さま、応援よろしくお願いいたします。

 [写真説明]髙橋一夫

■がんばろう日本!とちぎの観光と農産物フェア/4月22、23日/東京・池袋サンシャインシティ/「安全です。とちぎ産」アピール

 風評被害を受けた栃木県内の農業と観光産業を応援しようと4月22、23の両日、東京・池袋のサンシャインシティで「がんばろう日本! とちぎの観光と農産物フェア」が開催されました。JAグループ栃木は、県内各地の観光産業団体などとともにブースを設け県産農畜産物の安全性をアピールしました。

 日本一の生産を誇るイチゴ・とちおとめを試食販売し、栃木県産米の新品種「なすひかり」や、白美人ねぎ、春菊、ひめきゅうり、トマト、かき菜、ニラ、アスパラガスなどブランド農産物を直売しました。

 イベントには福田知事も参加し、「栃木県は空気、水、農産物いずれも安全で安心です。私が確信して皆さまにお薦めしたい」と安全宣言を行いました。またJA栃木中央会の小島俊一(こじましゅんいち)副会長と、JA全農とちぎの齋藤昭夫(さいとうあきお)栃木県本部長は「栃木の生産者は震災以降も手を抜くことなく農作物を生産し続けています。消費者の皆さんに何よりも安全安心を届けたいという思いでいっぱいです。これからも消費者の皆さんの応援が頼りです。私たちも頑張ります」とアピールしました。

 [写真説明]東京・池袋で開催された「とちぎの観光と農産物フェア」。JAのブースには栃木の誇るブランド農産物が直売された

 [写真説明]小島副会長(右)と齋藤栃木県本部長

 ▽とちぎの農産物フェア/JAグループとちぎブース/来場者の声

 ■新宿区・橿渕利治(かしぶちとしはる)さん、貞子(さだこ)さん「生まれは鹿沼。ふるさとの作物が味わいたくて来ました。農家の皆さんのためにも、こうした催しを企画してもっとアピールした方がいいですね」

 ■東池袋・長尾直子(ながおなおこ)さん「東京のスーパーでも栃木産の農産物はよく見かけます。娘も、『とちおとめ』は大好きです。原発事故の影響は大きいと思いますが、こうしたイベントを通してアピールしてくれると買う側としても安心できます」

 ■世田谷区・山路家子(やまじいえこ)さん「農産物には何よりも、信頼されることが大切ではないでしょうか。ネギ、ニラ、トマトを買いました。真面目に育ててくれた作物を、東京の知人にPRして回ります」

 ■文京区・高木小夜子(たかぎさよこ)さん「アスパラガスを買いました。新鮮なうちにいただいたのですが、とてもおいしかったです。栃木というとイチゴが有名ですが、ほかにもおいしい作物がいっぱいあるんですね」