農業生産の確保こそ国益

 内閣府が発表した2006年世論調査によると、40%という日本の食料自給率を「低い」「どちらかというと低い」と考える人は7割。6年前の調査より17ポイント上昇しており、日本の食料供給のあり方に危機感を抱く人が増えています。一方、結果のいかんによっては日本農業が壊滅し、自給率の低下に拍車がかかりかねない日本とオーストラリアのFTA交渉が3月にも始まろうとしています。あまり報道されることはありませんが、私たちの生活の基本となる「食」にかかわる大切な問題です。食の現状を踏まえ自給率向上のために私たちが出来ることは何なのかを考えてみましょう。


98年以来 40%と低迷

 ■ 先進国中で最低レベル ■

 食料自給率とは、普段私たちが食べているものに占める、国産農産物の割合のことです。国産供給熱量/国内総供給熱量という算式によって導かれます。対象とする品目によって「総合食料自給率」「穀物自給率」といった示し方があります。

 農林水産省のまとめによると2005年度の総合食料自給率は40%。1967年に66%だったが、98年に40%になって以来ずっと低迷しています。主要先進国の中でもオーストラリア230%、フランス130%、米国119%、ドイツ91%、英国74%と、日本は最低の水準にあります。

 一方、穀物自給率はどうでしょうか。農林水産省のまとめによれば2005年度は28%。先進国といわれるOECD(経済開発協力機構)加盟30カ国の中で27位、世界173の国・地域の中で124番目で、世界の中でも最低の水準となっています。

 私たちの食生活は第二次世界大戦後、急速に欧米化しました。畜産物(食肉・乳製品など)の消費量(国民1人あたり年間)は1965年に58キロだったのが2005年には137キロに、油脂類も6キロから15キロへと大幅に増えています。

 牛や豚などの肥育にはトウモロコシなど大量の飼料穀物が、また、食用油の製造には原料となる大豆が必要です。国内ではこれらを十分に賄える耕地がないことから、円高もあり、そのほとんどを海外からの輸入に頼ることになりました。

 一方、国内で自給可能な米の国民1人あたりの消費量は、1962年の118キロをピークに年々減り、一昨年は62キロとなっています。自給率の低下は、このような食生活の変化が原因なのです。

 ところで、同じ島国でありながら英国は、この30年間に食料自給率を向上させてきています。70年に46%だったのが、2002年には74%にまで向上しています。

 もともと英国は貿易立国として、穀物を中心に多くの農産物を輸入に頼っていました。しかし二度の世界大戦で深刻な食料不足を経験しました。この結果、農業を軽視することは国にとって危険であるという意識が国民の間に醸成され、戦後、食料増産を目指す農業政策をとってきたのです。また、英国では日本のように食生活が大きく変化しなかったことも自給率向上の要因の一つといわれています。


自国の農業生産確保

 ■ 米国の輸出管理法 ■

 「自国の国民に満足に食料を生産できない国を想像できようか? そんな国は国際圧力に屈し、危機に直面してしまうだろう」

 アメリカのブッシュ大統領は01年7月、ホワイトハウスに集まった農業者を前に、食料自給の大切さを訴えました。自国の農業生産を確保することが、農業政策だけでなく国益の上からも大切なことを大統領が自ら説いたのです。米国には「輸出管理法」という法律もあります。

 ある作物を輸出することで米国内の価格が高騰することになれば、いつでも輸出をストップできるというものです。大豆の不作から1973年に発動され、世界中が混乱しました。「あくまでも自国民の食糧を確保する」という米国の姿勢を示したのです。

 日本の農産物の輸入額は年間約4兆2000億円で、その相手国は米国、中国、オーストラリア、タイ、カナダで約7割を占めています。たくさんの食べ物に囲まれ、私たちは一見、豊かな食生活を送っているように見えます。しかし、そのほとんどは特定の国の耕地によって支えられた、極めて脆弱な基盤の上に成り立っているのです。

 にもかかわらず、日本国内では、一部のマスコミや経済評論家などが「自由貿易こそが日本の国益。海外農産物をもっと輸入すべき」といった論調を展開しています。自給率向上の視点はそっちのけです。このような日本国内の動きはブッシュ大統領にどのように映っているのでしょうか。


日本の「国益」って?

 ■ 国内農業に深刻な打撃 ■

 日本とオーストラリア政府はFTA(自由貿易協定)を柱としたEPA(経済連携協定)の締結交渉を3月までに始める予定です。農産物などの関税を撤廃し、両国の貿易を活性化させようというものです。

 2005年のオーストラリアからの日本の輸入総額は2兆7062億円。石炭や鉄鉱石などの天然資源が62%と大半を占め、農水産物は(牛肉、小麦、チーズなど)22%、6048億円となっています。オーストラリアの耕地面積は日本の約90倍です。コスト面ではとても太刀打ちできません。農林水産省は仮に、関税撤廃となった場合「肉牛、酪農、小麦の国内生産は壊滅し、国内農業、雇用などに与える打撃の規模は約2兆円。さらに、食料自給率も30%台後半に落ち込む」としています。想定される地域経済への打撃を恐れ、全国の地方議会では「牛肉、小麦、乳製品などを交渉の対象から外すことを求める」意見書を採択しています。栃木県議会も昨年12月18日、「重要品目の関税撤廃の断固拒否」などを求める意見書を全会一致で採択しています。

 オーストラリアの鉱工業製品の関税はすでに0~5%に削減されています。国内農業を崩壊に導き、食料自給の脆弱さに拍車をかけかねない交渉にどんな「国益」があるのでしょうか。


見直そう日本型食生活

 ■ 一人一人の心がけ肝要 ■

 世界的に見れば食料不足はすでに始まっています。現在、世界の人口61億人のうち、1日あたり2200キロカロリー以下という栄養不足人口は8億5000万人といわれています。「温暖化による農耕地の砂漠化などにより、地球全体の食料供給能力はもはや限界」という見解もあります。例えば、オーストラリアでは昨年から100年に一度といわれる干ばつに襲われています。国土の3分の1が非常事態地域に認定され、小麦を輸入する事態に陥っているのです。

 いつまでも、現在のように食料を輸入することができるという保証はありません。過度に海外からの農産物に依存しない食事を心がけることが大切です。食料自給率は農業生産に限らず、県民の皆さん一人一人がどのような食生活を送るかによって左右されるものです。低カロリー、低脂肪の日本食は今や世界中で大人気。ごはんを中心にした日本型食生活をもう一度見直しましょう。

 【FTAとEPAとは?】 FTA(Free Trade Agreement)は自由貿易協定の略。貿易の障害となる壁を相互に無くして、締結国間の貿易を推進しようと、国と国の間で結ばれる協定のこと。物品(モノ)の貿易に関わる関税や、輸出入の数量制限などを撤廃するのが中心。EPA(Economic Partonership Agreement)は経済連携協定の略。FTAで対象にする「モノ」に加え、人やカネ、経済制度なども対象に結ばれる協定。

 [写真説明]オーストラリアの100年に1度といわれる干ばつを報じる昨年12月22日付の日本農業新聞


特別寄稿 食料自給率について思うこと
県知事 福田富一氏 食育推進し 強い農業確立

 食は、人の命の源であるだけでなく、健全な心と体の基礎となるものであります。

 我が国は、戦後、経済の発展に伴い、豊かな食生活を実現できましたが、一方で国内食料自給率は年々低下し、現在ではカロリーベースで40%と、私たちの食べ物の多くを海外に依存しているのも事実です。

 世界では約8億人の人々が飢餓や栄養不足に直面し、天候不順による自然災害の頻発や資源・環境問題の顕在化など、中長期的には世界の食料需給がひっ迫する可能性も指摘されている中、食料自給率を高めていくことが極めて重要となっております。

 一方、食を巡る状況をみますと、ライフスタイルの多様化に伴って、偏りのある食行動が見られ、優れた食文化も失われつつあるなど、様々な問題が起きており、望ましい「食」とそれを支える「農」について今一度原点に立ち返り考えていく必要があると思っております。

 国では、食料・農業・農村基本計画において、需要に応じた生産を推進するといった農業生産面での努力に加えて、食料消費面においても、消費者が自らの食生活の見直しを行うなど、食料自給率の向上に向けた取り組みを推進しています。

 栃木県では、これらの動きも踏まえつつ、恵まれた自然条件や東京圏に近いという地理的優位性を活かした「首都圏農業」を基本に、食の安全・安心の確保など時代の要請に応えながら、地域の創意工夫と意欲を活かして、多様なニーズに対応できる強い農業の確立などに取り組むこととしております。

 また、県民一人ひとりの健全な食生活の実践を目指した「とちぎの食育元気プラン」を策定し、これに基づき、食に関する体験活動などを通じて食を大切にする心の醸成を図りながら、米や野菜、牛乳など栃木の多彩な食を活かした日本型食生活、さらには生産者と消費者相互の理解促進などを図る地産地消をなお一層推進して参りたいと考えておりますので、県民の皆様の御理解と御協力をお願いします。

 [写真説明]県知事 福田富一氏


日本の食と自給率について

 ■栃木県生活協同組合連合会会長■
 竹内明子さん 農耕文化、次代へ伝承を

 40%という数字は危機的なことです。日本人は農耕民族として、山や田園風景の中で生活し伝統と文化を育んできました。一方、世界では食料の争奪戦はすでに始まっています。現在の自給率では問題があるのではないでしょうか。食を含めた固有の文化は次の世代にきちんと引き継いでいかなければなりません。農作物が育つ豊かな環境に目を向けて頂きたいものです。




 ■CRT栃木放送報道制作局アナウンサー■
 高橋晴夫さん 自給率向上に対処法様々

 職業柄、健康にはとても気を使っています。食への関心は高まっているようですが、日本の食料自給率は低すぎます。都市部の人たちの力を借りた耕作放棄地の解消、米粉のような新商品の開発、食べ残しの削減など、様々な対処法があるはずです。こうしたことが、うねりとなるようにメディアに携わるものの1人として注意していきたいと思います。




 ■とちぎTV朝生とちぎキャスター■
 若林芽育さん 安心でおいしい地元の作物

 昨年、野菜のソムリエといわれるジュニアベジタブル&フルーツマイスターの資格を取りました。地元のおいしさをもっと伝えたいという思いからです。慣れ親しんだ土地で栽培された農作物は、おいしさが違うし、安心感があります。食事と健康は切り離せません。これからも、放送を通じて視聴者と農家をつなぐきっかけ作りのお手伝いをしていきたいと思います。