学校へ行くふりをして家を出た高校2年の少女。両親には理由が分からなかった。

 1月、東京都渋谷区(本文と写真は関係ありません)

 依頼を受けたのは、もう6、7年前だろうか。

 宇都宮市内の大通りに面した探偵事務所で、代表の駒木憲一(こまきけんいち)さん(57)は記憶をたどる。

 高校2年の娘が家を出た-。

 相談に訪れた両親は、駒木さんに問われるまま、ポツポツと語り出した。夏休み間近の朝、学校に行くといって出掛けたこと、携帯電話は部屋に残っていたこと、学習机の上には両親宛ての置き手紙があったこと…。

 家出の理由は思い当たらない。まっすぐな黒髪の真面目そうな少女の写真、参考書が整然と並ぶ部屋。両親ともに教育者、少女自身も県立の進学校に通う。

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 解決に導いたのは、部屋のごみ箱に残された多機能携帯音楽プレーヤーの空き箱だった。親は音楽やゲームしかできないものだと思っていたが、Wi-Fi(ワイファイ=無線LAN)があるところならメールもインターネットも可能だ。

 「体を求める人ならパスなんだけど」「そんなの全然望んでないって。家事だけやってくれればOK」

 両親の協力を得てパスワードなどを割り出すと、少女はいわゆる会員制交流サイト(SNS)上の「神待ちサイト」でやりとりしていたことが分かった。

 家出したい中高生女子と、「泊め男」とも呼ばれる“神”が、互いの条件を出し合い交渉する場だ。少女の書き込みには、東北から東海まで、約20人もの“神”から返信があった。

 両親は警察に届け出、少女は500キロ以上離れた西の街で、30代の男の家にいるところを保護された。男はサイトの常連だった。

 “神”は、まず少女たちに書き置きを残すよう指示する。自発的な家出と見せかけ、捜査の手が及びにくくするためだ。ネットの履歴を消し、友達と連絡を取らないように命じる。あるいは逆に定期的に親に連絡を入れさせ、「安心」させるケースもある。

 厳格な両親と優秀なきょうだいに囲まれ、家には自分の居場所がなかった少女。男の家で過ごした3日間、約束通り「家事だけやればOK」だったのだろうか。

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 この子、またやるんじゃないか-。

 事件解決後、駒木さんはそう感じたという。無意識に比較されることで傷ついてきた少女のつらさを、両親がどこまで受け止めたのか心もとなかったからだ。

 「思春期の子どもたちが求めているのは、ありのままの自分を受け入れてくれる人や場所なのかなぁと思いながらやっている」。フリースクールやSNS相談事業を手掛けるNPO法人キーデザイン(宇都宮)の土橋優平(どばしゆうへい)代表(26)も、こう明かす。

 事務所のソファで、一瞬遠い目をした駒木さんは述懐する。

 「怖いと思いました」

 詐欺師なんてみんな「いい人」だ。見えない相手に救いを求める危険が、居場所を求めてさまよう子どもたちには伝わらない。そして、そこまで追い詰められている子どもたちの声も大人には届かない。このままではネットは無法地帯。えらいことになる-。

 その恐れは現実のものになった。

 2018年、県内の女子高生がSNSで知り合った男に誘拐される事件が、立て続けに起こったのだ。

(子どもとSNS取材班)