2月下旬。群馬県境に近い佐野市下羽田町にある約50アールの畑で、大麦の芽が10センチほど育っていた。

 「そろそろ、除草作業しないとね」

 地元の農家金井猛弘(かないたけひろ)さん(56)が、麦を踏みながら言った。

 育てている品種は、もち性の裸麦「ダイシモチ」。四国原産で寒さに比較的弱いとされるが、金井さんは2017年から18年にかけて、県内で例がない大規模栽培を成功させた。

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 ダイシモチ栽培は2年ほど前、JA佐野の職員で当時、金井さんの地元の支店長だった相良賀唯(さがらよしただ)さん(54)が提案した。

 相良さんは健康やダイエットのため、コメにもち麦を混ぜて食べていたが、市場に出回っているもち麦の多くは外国産だったという。

 もともと、県内は国内有数のビール麦産地だ。周辺にも生産者は多い。「ならば、自分たちで作ってしまおう」と考えた。安全・安心という付加価値で、産地化、ブランド化して売れれば、生産者の所得向上にもつながるからだ。

 「やるべよ」

 「やってみっか」

 品種は、相良さんが「食べて一番おいしいと思った」というダイシモチに決めた。17年春に四国から種を取り寄せ、この年の11月に金井さんの畑2ヘクタールでまいた。

 ただ、ダイシモチは暖かい西日本での生産が盛んで、これまで県内ではほぼ例がない。周囲からは「作れないのではないか」との声も上がったが、無事に1週間ほどで発芽。目標の4倍超に当たる約9トンを収穫することができた。

 金井さんは「驚くほど取れた」と振り返る。「天候に恵まれた面もある。この辺りの環境に合っているのかもしれない」

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 収穫したダイシモチはJA佐野の各店舗や地元のスーパーでの販売のほか、楽天市場でのインターネット通販もしている。

 もち麦は食物繊維を多く含み、脂肪吸収の抑制や腸内環境改善といった効果があるとされる。コンビニのおにぎりでも使われるなど、いま注目を集める食材の一つだ。500グラム1千円(税込み)などで販売し、「予想以上に売れている」(同JA担当者)という。

 「ダイシモチは冬が暖かく、雪が少ない方が作りやすい」と、金井さんは説明する。当初から温暖化への適応を強く意識していたわけではないが、結果的に近年の暖冬傾向が良い結果につながったとみられる。

 気候変動については「変化に合わせていろんなことができる」と、前向きに捉える。「変化を見越して挑戦できるのは面白いからね」

 ダイシモチ栽培2年目の今季も、計2ヘクタールで作付けした。このまま順調に育てば、5月中に収穫を迎える。