工事が進む新国立競技場(中央)。2020年の東京五輪・パラリンピックは猛暑への対策も急務となっている=18年7月、東京都内

 25キロすぎ、先頭集団から遅れ始めた。脚が動かない。体が進まない。

 31位。大敗だった。

 「暑さ対策が全然できていなかった」

 世界の舞台で活躍した芳賀町出身の元マラソン選手赤羽有紀子(あかばゆきこ)さん(39)には、2009年8月にベルリンで開かれた世界陸上の苦い記憶がある。

 レース後、脱水症状だったと分かった。夏場のレース経験も、暑さに慣れる練習も不足していた。

 苦手だった帽子の着用やレース中の体への水かけを嫌がらなくなったのも、ベルリンがきっかけだ。

 だからこそ、実感する。

 「選手の立場で言えば、気温は1度でも2度でも低い方が、うれしい」

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 真夏に開かれる東京五輪。開幕まで1年半に迫る中、「酷暑」への対応に注目が集まる。

 「7時スタートでは、熱中症リスクが極めて高いとみられる10時ごろまで競技が続く」。日本医師会(日医)と東京都医師会は昨秋、東京五輪・パラリンピック組織委員会などに対し、マラソン競技の開始を予定の午前7時から1時間半繰り上げるよう要望した。

 中京大の松本孝朗(まつもとたかあき)教授(環境生理学)の研究によると、7時開始ではコース上の場所と時間によっては熱中症の危険度が「運動中止」レベルに達するが、5時半ならほぼ「警戒」レベルの範囲で済むという。

 現在、開始時間は早まる方向で調整が進む。

 日医の常任理事を務める長島整形外科(壬生町)の長島公之(ながしまきみゆき)院長(58)は「一番良いのは5時半だが、6時でもかなりの効果がある」とみる。ラグビー7人制や自転車マウンテンバイクは、競技時間の変更が既に決まった。

 観客向けの対策も欠かせない。長島院長は「鍛えている選手より、観客やスタッフのリスクが大きい可能性がある」と指摘する。

 組織委によると、競技会場では大会ボランティアが熱中症への警戒を呼び掛けるほか、具合が悪そうな観客に声を掛ける。「早めの対処で重症化を防ぎたい。回復したら観戦に戻ってもらうのが理想」(組織委広報担当)という。

 行列に備え、会場入り口にはテントや大型の冷風機を用意。ボランティアの屋外活動は時間に上限を設け、ユニホームは通気性の良い素材を使う。多岐にわたる対策の効果は今後、テストイベントで検証する。

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 本県では3年後の22年に、42年ぶりの国体開催を控える。期間は9月下旬から10月上旬と真夏ではないが、対策は必須と言える。

 17年の愛媛国体では40人以上、18年の福井国体では約20人が熱中症になった。いずれも選手・監督よりも一般の観客やスタッフの発症が多かった。

 福井県ではチラシや観戦ガイドなどで熱中症への注意を呼び掛けた。今年は隣の茨城県での開催で、気候も近い。とちぎ国体の準備を進める県国体準備室の担当者は「他県の取り組みなどを参考にしていきたい」と気を引き締めている。

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 地球温暖化が進めば、猛暑の頻度は高まる。命に関わるほどの暑さに、私たちはどう対応していけばいいのか。「気候変貌」第2部では、さまざまな分野での熱中症対策を探る。