関税ルールめぐり綱引き

 難航を極めている世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)農業交渉。議長を務めるファルコナー氏は妥協案を提案していますが、先行きは不透明なままです。合意内容によっては、日本の農業のみならず、食料供給に極めて深刻な影響を与えると懸念されています。来月には、各国閣僚級会合が予定されるなど、交渉は重大局面を迎えています。これまでの交渉の流れや論点などをまとめました。

保護削減で主要国対立

 ■ WTOとは ■

 WTOは世界中のさまざまな貿易ルールの管理や見直しを行う国際機関で、151の国・地域が加盟しています。

 農産物や鉱工業品だけでなく、金融、通信、サービス、知的財産権など幅広い分野が対象です。

 2001年に新しい貿易ルールづくりの場を設け、各国が主張を対立させながらも、今年中の最終合意を目指して交渉を継続しています。

 ■ 交渉の経過 ■

 ドーハ・ラウンドは2001年のスタート以降、貿易の保護削減のルールとなる「モダリティ」をめぐって、主要国の意見が鋭く対立、たびたび中断されてきました。04年にモダリティの枠組みで合意したものの、関税の引き下げ幅など具体論で対立が続き、07年1月に再開されました。

 同年7月には交渉加速化のため、農業交渉と鉱工業品を扱う非農産品市場アクセス交渉の2分野で、モダリティに関する議長案を提示。農業交渉は現在、今年2月に出された議長案改定版を基に大詰めの議論が行われています。

 来月にも各国閣僚級会合が開かれる見込みで、モダリティが決定されるかどうかが焦点となっています。

 WTOの合意は加盟国の全会一致が原則のため、農業交渉だけでなく、さまざまな分野が複雑に絡み合っているため、意見の取りまとめが難しくなっているようです。

食料輸入国に負担強いる提案

 ■ 交渉の論点 ■

 ドーハ・ラウンドでは原則として、高関税品目ほど関税の引き下げ率を大きくすること(一般品目)や、その国にとって保護すべき品目(重要品目)は関税引き下げ率を圧縮する代わりに低関税での輸入枠を広げることが既に決まっています(枠組み合意)。

 現在の論点となっているのが、今年2月に示された議長案改定版。主な提案は(1)一般品目は最上位階層(75%以上の関税がかかっている品目)の削減率を66~73%引き下げ(2)重要品目に指定できる数は関税品目の4~6%−の2点です。

 総じて輸出国に寛容で、輸入国に多大な負担を強いる内容です。米国をはじめとする農産物輸出国は大幅な市場開放を求めているのに対し、日本などの輸入国は真っ向から反対しています。

農家に大打撃の恐れ

 ■ 日本への影響 ■

 議長案改訂版について、コメで試算してみましょう。

 輸入米(60キロ)の国内販売価格約2万3060円の内訳は、輸入価格が約2600円、関税が2万460円(関税率は778%)。仮に70%の削減が行われた場合、関税率は233%程度に低下。関税は6120円に下がり、輸入価格と合わせた国内販売価格は約8720円と現行の半額以下となってしまいます。

 コメを重要品目と考えた場合、3パターンの削減率を選択します。関税価格は1万912~1万5686円程度ですが、低関税での輸入量を32万から40万トンの幅で拡大しなければなりません。

 いずれの試算を適用しても、外国産のコメの輸入価格が大幅に下がり、国内での流通量が激増することは必至です。基幹作物である国産米の多くが価格引き下げを求められ、農家にとって大打撃になる恐れがあります。さらに輸入食料があふれ、食料自給率がますます低くなる懸念もあります。

多様な農業共存が基本

 ■ 日本の提案 ■

 関税は各国の生産条件の格差を調整する唯一の手段ですが、日本は既にほとんどの農畜産物の関税を低く設定しています。

 主な野菜や果樹、鶏肉、切り花など、全体の7割弱は20%以下。コメをはじめ麦、乳製品、砂糖など国民生活に不可欠な品目は大量輸入を防ぐため高関税になっていますが、それでも75%以上の関税がかかっている品目は1割程度しかありません。日本の平均関税率は12%で、EUの20%、タイの35%、アルゼンチンの33%に比べ、はるかに低いのが実情です。

 農業交渉に臨む日本の基本的な考え方は、食料安全保障の確保や農業の多面的な機能の重視など、多様な農業の共存です。

 具体的には重要品目の十分な数と柔軟な取り扱いの確保を目指しています。公平で公正な貿易ルールづくりがなされるよう、世界の農業者とともに、強い働き掛けが重要となっています。

 ◇◆◇ フード・マイレージ ◇◆◇ 地産地消を進め環境にやさしく

 フード・マイレージとは、食料の生産地から食卓までの距離に着目して、環境への負荷を減らそうという運動です。なるべく近くで生産された農産物を食べれば、輸送にかかるエネルギーを使わずにすみます。

 指標は「相手国別の食料輸入量」に「輸送距離」を掛けた数字。数値が高いほど、輸送などにかかる二酸化炭素の排出量が多く、環境に与える負荷が大きいことになります。

 農林水産省政策研究所の試算によると、日本のフードマイレージは約9000億トンキロで、一人当たり7100トンキロ(2001年)。世界でも際立った数字で、韓国の2・8倍、米国の3倍です。地産地消を進め、環境にやさしい食生活を心掛けましょう。


 コラムオアシス 地球規模の食糧不足 今こそ日本農業に応援を

 WFP(世界食糧計画)は、30カ国で食糧危機に陥っていると報告。トウモロコシなどがバイオ燃料として利用され、主要穀物が高騰しました。その結果、食糧争奪戦を引き起こし、アフリカをはじめとする途上国は調達困難となっています。この状況下でコメなどの輸出国は、自国民に対する供給を優先させるため輸出規制を開始し、心配していたことが現実となってきました。

 日本は自給率39%で、純然たる食料輸入国です。将来の食料確保に、大多数の消費者は不安を抱いています。国の役割は、食料の安定的供給に責任を持つことで、農と食を重要視すべきです。コメの消費が減り、農家は生産調整を余儀なくされ生産能力を十分に発揮できません。今後、コメ粉の活用が重要であり小麦の代替品の位置付けではなく、堂々と主要食糧としての役割を果たしたいと考えます。

 私たち農業者は、皆さんに安心して食べていただくために、日々生産に励んでいます。しかし生産者価格からみれば、その評価は得ているとは言い難いのが実状。コメを例にとっても消費者価格で茶碗一杯が30~40円。他の食品と比べ安すぎるとは思いませんか? このような環境下では次世代を担う若者は農業という産業に手を挙げないのではと心配しています。

 消費者の皆さんに約束します。世界中で一番安心できる農畜産物を生産し安定供給に努力を惜しまぬことを。是非、日本農業の応援団になってください。

(JAうつのみや代表理事組合長 小島俊一)