「自助努力 もう限界」

 穀物価格や原油価格の高騰が、県内の農家を直撃しています。穀物から作るバイオエタノール燃料の需要が増加したため、2006年秋以降、家畜のエサの主原料であるトウモロコシ価格が上昇。畜産・酪農農家が負担するエサ代が急騰し、赤字に陥る農家も出始めているからです。また、ハウスでの暖房費に使用するA重油が値上がりしたため、園芸農家もコストが上昇しています。生産性の向上や自給飼料の栽培などでコスト削減の努力を図っていますが、限界に達しているのが現状です。

 ■ 養豚 ■ 数年前の倍近くに

 「ずっと努力してきたが、やれることはもうない。どんなに経営改善しても、超えられない壁がエサ代。限界感があります」

 芳賀町で年間1600頭を出荷している養豚農家の関本幸男さんが、苦渋の表情を浮かべながら、コスト高の現状を説明してくれます。

 豚のエサはトウモロコシを主に麦や大豆かすなどを交ぜた配合飼料を使っています。ところが、トウモロコシ価格の急騰に伴い、数年前に1トン当たり2万8000−3万円だったエサ代が、今では5万5000−6万円に値上がり。「エサ代が倍近くかさんでいる」と関本さん。

 エサ代高騰による生産者の負担を軽減する「配合飼料価格安定制度」で、1トン当たり5000円から6000円が補てんされます。しかし、「出荷するまでに1頭にかかるエサ代2万4000円のうち、補てん額は2400円にしかならない」そうです。

 関本さんによると、労賃込みの所得率は10年前の20%前後から、今や10%以下に。「労働に見合った報酬が得られないんです」。補てん基金の財源が枯渇する恐れもあり、制度の見直しを強く要望しています。

 病気の早期発見や予防、経営効率の向上など、これまでも農家は絶え間ない努力を続けてきました。今後は中国やインドでの穀物需要も予想され、エサ代が下がる可能性は厳しいと見られています。

 関本さんは訴えます。「価格では外国産に負けるけど、おいしさでは負けないものを作っているんです」

 [写真説明]「労働に見合った報酬が得られない」と訴える関本さん

 ■ 肉牛 ■ 補てん制度強化を

 2006年の暮れ。和牛30頭、交雑牛110頭を生産する宇都宮市の須藤貢さんはがく然としました。昨年1−3月期の交雑牛の飼料代が急激に上昇したからです。それまでは1000から2000円の幅で値上がりしていたのが、一気に5000円のアップ−。

 「『こんなに値上がりして支払えるのか。引き締めてやらなければ』と思った」と当時を振り返ります。06年後半と現在を比べると、1トン当たり1万5000円ほど上昇しているそうです。

 一般的に交雑牛1頭当たり20カ月で5トンのエサが必要。値上がり前と後では、エサ代は1・5倍に膨らんだ計算です。エサ代のほかに、子牛代、物材費などもかかり、1頭当たりの利益は「いいときの半分」に。

 安定制度にも不安を隠せません。「高騰が続けば、基金の財源が枯渇する。国にはエサの値上がり対策を取ってほしい。制度の強化充実を」と力を込めます。

 価格転嫁も見込めない中、生き残る工夫としてきめ細かな生産体制を心掛けています。おいしい肉質、枝肉の重量増…。「一日に何度も牛舎に入り、状態を見る。日ごろの飼養管理の中で、高値で売れるようにしていくしかない」

 後継者の問題も頭を悩ませます。「この状況では息子に跡を継げとは言いにくい。将来の展望が見えないから」と声を落としました。

 ■ 酪農 ■ マイナス重なり貯金取り崩し

 生産コスト高のほか、牛乳消費量の落ち込みが背景にある酪農家は、さらに負担が増しています。

 「乳価が上がらないところに、エサ代の値上げが来た。マイナスが重なり、値上げ分は農家の負担。経営は赤字で、これまで貯めた分を取り崩している」。135頭を飼育する宇都宮市の小林幸雄さんが深いため息をつきます。

 酪農の場合、エサは配合飼料と粗飼料(草)の組み合わせ。配合飼料は05年と比べ1キロ当たり16−17円上昇し、粗飼料も10円前後アップしたそうです。

 遊休農地を借り、飼料用の牧草やトウモロコシといった自給飼料生産にも取り組んでいます。しかし、「家族経営に近い形態では労働力に限りがあり、これ以上の自給飼料生産は難しい。生産費も下げて努力してきたが、限界」と小林さん。

 “副産物”であるはずの雄の子牛価格も下落傾向にあります。酪農とちぎは「肉牛農家が子牛購入に資金を回せず、買い控えが起きている。現金収入として期待できたが、それすらも断たれてしまった」と説明します。

 小林さんにとっては、国の補助を受けて06年に建設した牛舎と搾乳施設の返済も負担となっています。「去年は何とか返せたけど、今年はどうなるか…」。家を新築する計画もありましたが、先延ばしを続けるしかありません。

 「消費者や量販店に、農業が日本の産業として維持できるかを考えてほしいですね。われわれの生活が安定する価格保証をお願いしたい」。今年4月から、わずか3円だけ上がる乳価。小林さんは、いちるの望みを託しています。

 ■ 施設園芸 ■ 暖房用の重油が値上がり

 イチゴにトマト、キュウリ、花き…。栃木県を代表する施設園芸も、原油高騰のあおりを受けています。ハウスを加温する暖房用のA重油が値上がりしているためです。ハウスのビニールや出荷用の段ボール箱などの資材面にも価格上昇の余波が出ています。

 鹿沼市の安生隆一さんは3種類のトマトをハウス4棟で栽培。「今年は冬の寒さがきついので、暖房費が一層かさむ」と顔をしかめます。

 安生さんによると、03年に1リットル当たり35円程度だったA重油は、06年に60円、07年初めに65円、07年10月には70円と上昇。今年1月末で86、87円前後と、数年前の2倍以上に跳ね上がりました。生産コストは4割増になっています。

 コスト高対策として、寒さに強い品種の比率を高めたり、栽培を前倒しして収量を増やしているほか、ハウスの多層化で保温効果を高めています。

 全農とちぎの試算では、A重油の値上がりによって、イチゴで5円(1パック)、トマトで55円(1箱)、キュウリで77円(1箱)も生産コストが上がることになります。しかし、野菜はコスト高を価格に反映させづらい流通構造となっているのが現状です。

 安生さんは「このまま高騰が続くと、ゆとりがなくなり、生活するので精一杯になる。少しでも高く買ってもらえたら」と訴えています。

 [写真説明]本来なら年明けから収穫する作型を、年内に前倒しし、収量アップに努めている

メモ

 ●生産コスト高 飼料高騰の背景にあるのは米国のエネルギー政策。ガソリンへの依存を減らそうと、米国のブッシュ政権が代替燃料のバイオエタノール増産を「国策」としたことが影響している。大豆や果物からトウモロコシへの転作も相次いでおり、日本などへの輸出量がひっ迫する懸念もある。

 また、トウモロコシへの切り替えによって大豆価格が上昇しているほか、小麦はオーストラリアの干ばつ、ウクライナの不作などが原因で値上がりしている。

 ●配合飼料価格安定制度 エサ代の安定を図る激変緩和措置で、生産者やメーカー、国で積み立てを実施。通常補てん基金と異常補てん基金の2種類がある。通常補てん基金では、直前1年間の平均と比べ上回った場合、上回った額を補てんする。しかし、高値が恒常化するなど、補てん制度が機能しなくなりつつある。


 コラムオアシス 食料の危機管理はこれでよいのか

 中国は4千年の歴史がゆるやかに流れ、現代に入っています。それに比較して、日本は経済はもちろん、その他もろもろの面において早い時の流れで進み、中国を引き離して来た感じがあります。

 現代の日本を考えるに、あまりの早さの進みの中に、何かを置き去りにして来たように思えてなりません。例えば、理由なき通り魔や食の外国依存など、一般の私たちでも心配な問題が多すぎるのではないでしょうか。

 私たち、農業に携わる者として食の安全安心は何人に言われることもなく当然の事ととらえております。昨今、中国から輸入したギョーザが話題になっております。輸入に頼る日本にとり、このまま食料を海外に依存してよいのでしょうか。カロリーベースで今、39%の自給率とは誠に心細い限りであります。

 一部の学者が「日本は工業製品を輸出して世界各国から安い農産物を輸入した方が国民は豊かな生活ができる。外国と仲良くしていれば食料は分けてくれる」と発言しているテレビ報道を見ましたが、どこの国が日本の食料を永久に不足しないよう保障してくれるのでしょうか。食料に関しては人の命をつなぐ必需品なのです。

 国民の食料を守るのは国の最も重要な役割ではないでしょうか。食料は戦略物資であると言われていますので、私たち生産者と消費者が考えを一つにして国家の危機管理の面からも自給率を高めていく必要があるのではないでしょうか。

(那須野農業協同組合代表理事組合長 川嶋寛)