東京都内にあるフレンチ、和食のレストラン5店に昨年11月、それぞれ本県産の農畜産物を使ったオリジナルのコース料理がお目見えしました。首都圏で「とちぎのうまいもの」をアピールしようと、とちぎ農産物マーケティング協会が開催した1カ月間のフェアです。

 とちぎ和牛の炭火焼、ヤシオマスのお造り、栃木しゃもの低温ロースト…。各店のシェフが「糖質制限」をテーマに趣向を凝らしたメニューのリストには、「那須の白美人ねぎ」も多く登場し、サラダや肉の添え物など、さまざまな料理で存在感を発揮していました。

 ▽「差別化図る食材」に

 「食感は軟らかく、辛みが少なくて甘みが強い。生でもサラダの主役になれるネギです」。同協会事業推進部の船越(ふなこし)直(なお)美(み)主任は「白美人ねぎ」の魅力をそう説明します。3年前から毎年、フェア参加店のシェフらを生産現場に案内し、自らの目と舌で確かめてもらっていますが、その独特の甘みに一様に舌を巻くそうです。

 「メニューで差別化を図るために特徴ある食材が強く求められています。そうした中で『白美人』の名前は県外で着実に浸透してきています」

 「那須の白美人ねぎ」は、1993年に当時の大田原市農協が名付けた統一ブランドです。その後、96年に那須地区6農協が合併し、JAなすのが誕生したのと同時に発足した現在のねぎ部会(村上(むらかみ)千(ち)秋(あき)部会長、約150人)がブランド野菜として大きく育ててきました。2002年には、とちぎ農産物マーケティング協会の「とちぎ地域ブランド農産物」にも認定されています。年間販売額は約6億5千万円(12年度実績)を誇ります。

 ▽安全・安心にも尽力

 同部会は「量は力、品質は信用」をモットーに、栽培技術の統一や一元出荷体制の確立、露地ネギの同年栽培や高品質のハウス軟白ネギなど新たな栽培法の開発と普及に積極的に取り組んできました。また、有機質肥料主体で農薬の使用回数を減らし、トレーサビリティーシステムやGAP(農業生産工程管理)を導入するなど「安全・安心」にも力を注いでいます。

 未来を担う若手生産者も育っています。ハウス軟白ネギの生産15年目で、部会の販売部門副部長を務める渡辺一浩(わたなべかずひろ)さん(42)=大田原市市野沢=は「全員が統一基準を厳しく守り、切磋(せっさ)琢磨(たくま)しながら育てています」と、団結力がブランドを支えていると強調します。そして、環太平洋連携協定(TPP)交渉を控え、農業の先行きに不安はありますが、ブランドのさらなる成長に向けた頼もしい言葉を聞かせてくれました。

 「本当においしいものなら、お客さんは必ずついてきてくれると信じています。妥協しないで、安全で品質の高いネギを作り続けていきたいですね」

◇◆◇ 雑学辞典 ◇◆◇

  • ネギの歴史 中国西部・中央アジアを原産地とする植物で、大別すると白い部分を食べる「根深ネギ(長ネギ、白ネギ)」と葉を食用とする「葉ネギ(青ネギ)」がある。

     日本では奈良時代以前から栽培され、「日本書紀」にも登場する。和名では「き」と呼ばれていた。別名の「ひともじぐさ」には、「き」の一文字で表せるからとの説や、枝分かれした形が「人」の文字に似ているからとの説があるという。

  • おいしいネギの選び方 根深ネギは、葉が鮮やかな緑色でしおれていないもの、指で触ると弾力があり、巻きがしっかりしているものを選ぶ。白い部分と、緑の部分との境がはっきりしているものが良質とされる。


 コラムオアシス/TPPの影響/経済構造二極分化に拍車

 不耕作農地等を増やしてしまった1970年代から始まった生産調整、主食である米が経済合理主義にさらされた2004年からの改正食料法、国家政策で実施された07年の品目横断的経営安定対策、そして10年からの農家戸別所得補償制度、11年未曽有の東日本大震災・原発事故、そして菅内閣当時唐突に参加表明され、財界や一部エコノミストの論理に世論が誘導されているTPP参加問題など、常に農家は自然や国家政策に翻弄(ほんろう)されてきました。宮沢賢治の詩ではないですが、いつも百姓は「おろおろ」するばかりです。

 怪しい雲行きである、環太平洋連携協定(TPP)。格差生む市場原理主義は、協同組合の目指す社会と異なり、あらゆる社会で生き残り競争を加速させつつあります。長引く景気低迷や、大震災などの閉塞(へいそく)感が漂う状況の中で、国民のTPP交渉参加賛成60%以上という新聞報道がありました。経済至上主義がやはり現在の日本では必要とされる国民意識の証左なのでしょうか。関税を撤廃し自由化することで、貿易の活性化による経済成長の夢を追う構図です。しかしながらこれは日本全体の発展ではなく、二極分化の経済構造が以前にも増して進展するものと考えられます。

 農業の構造改革、そしてより生産性の向上は論を待たないものです。全産業の中で海外と渡り合うのには、農業にとり生産資源が厳しい側面も多い国情を、国民に理解してもらう必要があります。ごく一部海外には希少価値または高品質な日本農産物品の需要があることも事実です。普遍的に海外へ輸出を開拓するには、膨大な資金とすぐれた労力や時間が必要です。一方、多くの地域は残念ながら現在の人口減少とも相まって疲弊し、結果、国全体もうまく機能せず二極分化に拍車がかかるものと思われます。「地方農業の前途多難」が際立つものです。そのためにこそ、人類の英知である関税措置が最低限機能すべきところでありましょう。「国の仕組みを変えるTPP」。反対の意義はまことに重く、深く、広いものです。

(JA足利代表理事組合長 増田泰男)


 [写真説明]15年前から「白美人ねぎ」のハウス栽培に取り組んでいる渡辺一浩さん
 [写真説明]収穫した「白美人ねぎ」の選別作業を行う渡辺さん一家