若い力 ブランド受け継ぐ

 那須野ケ原の豊かな大地と清らかな水にはぐくまれた「白美人(はくびじん)ねぎ」は、白くすらりとした容姿と、軟らかくほのかな甘さをたたえた食感の良さが魅力です。大田原市を中心に栽培され、JAなすの全体では、年間約3億5000万円(2005年度実績)の販売額を誇っています。当初は「幻のネギ」と呼ばれていましたが、誕生から10数年が過ぎ、テレビ番組などで優れた食材として紹介されたことなどもあり、ブランド野菜の仲間入りを果たしました。とちぎ農産物マーケティング協会の「地域ブランド農産物」にも認定されています。

 白美人ねぎはハウス軟白長ネギのひとつで、専用の有機質肥料と徹底した品質管理の下で栽培されています。長さ約80センチ、その半分以上を占める軟白部分は、ネギ特有の辛み、臭みは“ひかえめ”で、サラダなどの生食用にも適しています。露地栽培ネギと品種は同じですが、ハウスの中で独自に開発された発泡スチロールの遮光板に守られ、白く長く育ちます。また露地栽培ネギのように軟白の部分に土が付着することがないので「美肌」を保ったまま食卓に届く点もメリットです。

 ■ イメージ向上に努力 ■

 大田原市でネギ栽培が始まったのは1982年。当時の大田原市農協管内での生産額は、わずか454万円、生産農家は4戸しかありませんでした。ねぎ部会は94年に50戸の農家で発足し、96年のJAなすのの発足と同時にねぎ部会も合併しました。現在、生産農家は180人を超え、生産専門部、販売専門部、青年部、女性を中心としたイメージアップ部が連携して消費拡大を狙い積極的に活動しています。

 特にイメージアップ部は白美人の特性を生かしたレシピの開発や、毎年のように東京の大手百貨店を訪れ、販売キャンペーンを展開しています。そうした生産者自らが地道に続けた努力により、出荷量、生産額も順調に推移してきました。その取り組みは高く評価され、2003年の日本農業賞(主催・JA全国中央会、JA都道府県中央会、NHK)集団組織の部で最高位の大賞を受賞しました。

 ■ 足腰の強い農業経営 ■

 「米麦中心の農業だけでは、これからの農家は勝ち残っていけない」。白美人ねぎのブランド化に尽力した部会長の村上千秋さん=大田原市冨池=は「足腰の強い農業経営を確立したい」という一心で、部会発足からの15年間を走り続けてきました。高値で安定した収益性のある転作作物にネギを選び、自ら先進地・北海道を視察し、白美人の礎を築きました。

 しかし当初、白美人の経営は赤字続きで「県の補助事業がなかったら続かなかったろう」と振り返るほどでした。また知名度アップを図ろうと毎月2度、京浜の青果市場へ売り込みに出掛けたそうです。白美人を詰めた長さ80センチの箱を4つ担いで新幹線に乗り込んだという苦労話は今も語り草となっているほどです。

 その村上さんの強い意欲とバイタリティーは、次の世代にも受け継がれています。同部会の30歳代の若手生産者を中心とした青年部は、現在約30人。会員同士の情報交換や、ネギ栽培農家にこだわらず同世代で実績を上げている全国各地の農家や産地を訪れ、研さんの日々を重ねています。大田原市市野沢の渡辺一浩さん=青年部会長=は、地元に戻って就農を決意した9年前から軟白長ネギを生産しています。「栃木といえば、イチゴが有名だけど、将来は白美人を栃木の代名詞にしてみたいですね。なによりも村上さんら多くの先輩たちが築いてきた白美人の名声を下火にさせてはいけないと思ってます」。産地を支える意欲とバイタリティーは、若い担い手に確実にバトンタッチされているようです。

 [写真説明]「那須の白美人ねぎを、栃木を代表するブランドに育てたい」と意欲を見せる渡辺さん=大田原市市野沢


 コラムオアシス 国内農業の大切さ

 平成19年を迎え、世界各国で異常気象が伝えられ、わが国においても、暖冬が続いている。南極を訪れた作家の立松和平氏も講演で「地球の環境について本当に考えなければいけない時期にきている」と述べているが、この異常気象は母なる大地・地球からの人類への警鐘なのかもしれない。

 昨年は4月のWTO農業交渉に始まり、12月には日豪FTA(自由貿易協定)交渉問題が起き、将来の国内農業に大きな波紋を投げかけられた。「日本の当然の権利として農産物の例外扱いを認める」という主張を、経済界やマスコミの理解も得て、日豪交渉に臨んで欲しい。世界的な水不足や食料危機が起きている今、古(いにしえ)に立ち返り、日本書紀に記された「農は天下の大なる本なり。民の恃(たの)みて生くる所なり」の教訓を生かし、主権国家として、食料自給率目標45%の必達に、全力投球で取り組むことが国の使命ではないだろうか。

 今年は農政の大転換がスタートし、品目横断的経営安定対策等により、将来の国内農業の生産基盤づくり・担い手育成に血の滲むような努力が続けられている。しかし、これらに水を差され、将来の農業に夢を託せない状況となれば、国策への信頼は失墜してしまう。

 今こそ国民は、国内農業が、日本固有の伝統的な文化・美意識・和の心を形成してきた歴史を顧み、今なお、日本人の心に脈々と生き続けていることを心に留めていただきたい。終わりに、農家・JAグループは、日本の食料を、自然や環境を、そして日本人の心を守る崇高な社会的使命を果すために、厳しい経済環境の中で必死に戦っていることをご理解の上、県民の皆様から農業に熱きエールを送っていただきたい。

(JA全農とちぎ県本部長 澤村紀明)