特別講演
「昨日の自分より一歩前へ」

元卓球選手 平野 早矢香 氏

卓球人生の転機に直面した時全てを自分自身で決断してきた

 今の日本代表選手は非常にレベルが高くなっています。さまざまなルール改正の中で、小さい頃から今の時代に合ったプレースタイルや時代の最先端の技術をよく研究し、身につけています。また、小さい頃から海外の舞台をたくさん経験し、場数を踏んでいます。さらに、これが一番大きいと思いますが、目標と意識の高さです。 私は小学生の時、一度も日 本一になったことがありません。そんな私がなぜ全日本選手権で5回優勝でき、団体の種目ではありましたが、世界選手権やオリンピックでメダルが取れたのか。かつ今 回のテーマ 「スポーツにおけるデータ活用と未来」についても、どうデータを活用したかをお話しさせていただきます。

 私は5歳で卓球を始めました。小学校2年生の時に全国2位になり、自分の中で同世代の中で日本一になると いう目標ができました。最初の転機は中学進学です。宮城県の仙台育英から中学校のお誘いをいただき、仙台育英学園秀光中学校への進学を決めました。その後も卓球人生で何度か転機がありましたが、26年間の現役生活を全く後悔なく送れたのは、すべて自分自身の意思で決めてきたからです。

 中学校でも、日本一の壁を破ることはできませんでしたが、監督に「中学、高校の6年間は世界の舞台で活躍するための土台作り。高校3年間も一緒にチャレンジしよう」と言われ、高校も仙台育英に進学しました。私が日本一にたどり着いたのは高校1年生の時です。目標達成に10年間かかりましたが、この間、人生の大切なことを学ぶことができたと感じてます。

 そんな中学、高校ぐらいから、自分の中で大切にしている言葉が「日々前進をする」ということです。周囲の才能あふれる選手を見ると、情けないと感じることも多かったのですが、この頃から周りの選手と自分を比較することを一切やめました。比較する対象は、 昨日の自分と今日の自分。まずは昨日の自分よりも少しでも成長し、昨日の自分に勝つ気持ちで、現役生活を送ってきました。

 高校卒業と同時にミキハウスに入社させていただきました。世界への挑戦ということで、自分自身を大きく変えることに取り組みました。用具を変え、技術的には新しいサーブを徹底的に強化しました。また、合理的な体の使い方について古武術の先生からアドバイスをいただき、麻雀の世界で有名な桜井章一さんからは勝負に対する心構えを教わりました。

 そんな中で私が一番大きな目標として掲げていたのが、オリンピックです。現役生活、選 手として出場できたオリンピックは、2008年の北京と12年のロンドンです。北京オリンピックは、メダル決定戦までは何とか勝ち進みましたが、最終的に韓国に0対3で敗れ、メダル獲得ならずで終えました。ロンドンで、福原愛さん、石川佳純さんとともに、日本卓球界初の銀メダルにたどりついたわけですが、 北京とロンドンでは、大会までの準備が大きく違いました。

 メダルを取るには勝たなければいけない国があります。 中国は強すぎましたので、それ以外で強かった韓国、香港、シンガポールに対象を絞りました。この3カ国のリザーブの選手も入れた計12名の選手の映像データを徹底的に分析しました。データ分析班の方々が海外のツアーに行って、12名の映像を片っ端から撮ってきました。この12名に対して戦術戦略を仮説として立て、戦術を実行するため必要な技術を日頃から練習する、という逆算方式で強化したのです。最終的に準決勝でシンガポールを3対0で破り、中国には敗れましたが、 銀メダルを取ることができました。

 その後はリオで代表になれず、東京を目指すか真剣に悩みました。しかし、31歳から35 歳までかなり低いパーセンテージに自分の4年間をかけるのは難しいなと、最終的には引退を決めました。今活躍している選手たちは、中国に追い付け、追い越せという位にまで来ています。ぜひ私の後輩たちを温かく応援していただければと思います。

基調講演1
ラグビーチームのデータ活用
スポーツチーム・企業のサスティナビリティへの取り組み

(株)NTT Sports X浦安D-Rocks
チームディレクター 大沼 照幸 氏

 私たちは「NTT Sports X」のチームマネジメント部で、チームの強化にあたっています。その中で、選手のコンディション管理と、チーム・選手の評価に関してデー タを活用しています。

 コンディション管理については、「ONE TAP SPORTS」 というプラットフォームを使って、GPSシステム、筋力測定・トレーニング、体重・体組成、傷害などのデータを統合・分析しています。負荷が上がりすぎ ている場合など、 アラートを出してけがを防止することなどに取り組んでいます。データはビジュアル化し、テスト項目を用いて選手の採用にも生かしています。

 選手の評価は、ラグビーやスタッフのデータを一元的に管理している会社のビッグデー タを使って行っています。得点、失点にどれだけその選手が絡んでいるのかなど、大量のデータを用いて算出し、チーム全体の傾向も把握できます。また、スクラムの衝撃や押すべクトルのデータを見える化し、強化しているところです。

 こうした取り組みを、まずは「浦安D-Rocks」の強化に生かし、次にスポーツ市場、さらにはヘルスケア事業など一般市場へも展開できないかと考えています。

(株)NTT Sports X浦安D-Rocks
ソーシャルデザイン 石神 勝 氏

 気候変動による夏の暑さは、選手たちにとって大変な状況です。チームを運営する身として、サステナビリティに取り組むことは、 ラグビーの市場を守ることにつながると考えています。ラグビー界で初となる「サステナビリティ宣言」を行いました。スポンサー、行政、 ファンも一緒に取り組むことで、チーム単体ではできないことをさらに拡大していきたい。 また、現役選手のキャリア育成という形の人材育成も図っています。

 昨シーズンはチームが排出する温室効果ガスの数値を測定し、scope1・2・3まで完了しました。また、仙台での公式戦では、来場者の移動で発生するCO2を算出して、その分の森林クレジットを購入して、森に木を植えることも実施しました。今年はホストゲームの全試合で行っています。 チームのホームページで取り組みを発信し、企業や団体が参加できるプラットフォームを構築しています。また、選手自身がアンバサダーとなって活動を広めることも進めています。企業との共創事業「社会課題にトライしていくフォーマルウェア」は、漁網から生地を作ってチームのスーツを作る事業です。このほかにも数多くのSDGsの取り組みを進 めています。

基調講演2
デジタル技術を活用した人材定着の方策

(株)TMC経営支援センター
代表取締役社長 葛西 美奈子

 労務管理の中でも大きな経営課題になっている人手不足対策について、デジタル技術を 活用した事例を重点にお話ししたいと思います。近年、メンタル不調で休職したりする人が多くなっています。離職に伴う人手不足を放置しておくと、職員のイライラが募り、ハラスメントなどにもつながって生産性の低下を招き、賃金が上がらない、転職が増えるという負のスパイラルが生じます。職員が辞める場合、いろいろな原因がありますが、対応できるものについては、いま一度、原因を分析して再発防止を図ることが重要です。

 人材定着のツールを紹介しますと、まず採用活動時20分くらいのアンケートを取って、それを専用のソフトにかけると、性格や適性を見ることができます。在職中の社員に対しては、会社に対して満足しているかをアンケートで分析できる「組織力測定」もあります。ストレスチェックはメンタルの健康診断ですが、意外とやりっ放しになっていることが多いので、データを生かして職場環境の改善につなげることが必要です。メンタルヘルスのセルフトレーニングをするアプリも開発されています。

 弊社では事務作業をデジタル化しています。事務用ロボット(RPA)を導入し、単純作業はロボットに任せて効率化しています。また職員の事務処理を数値化して見える化し、人事考課にも活用しています。中小企業では自社でのデジタル化が難しいかと思いますが、身近な専門家に相談することも一つの方法です。

NTT東日本 栃木支店
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