公共交通の一つとして、中心部を走るQライン=5月23日、デトロイト

 かつて「自動車の聖地」と呼ばれたミシガン州デトロイト市。ゼネラルモーターズ、フォード、クライスラーのビッグスリーが本社や工場を構え、1950年代には人口185万人に膨れ上がった。

 「壁画に描かれているフォードの工場で流れ作業を学び、持ち帰ったのがトヨタの生産方式の源流だった」

 デトロイト美術館に収蔵されるディエゴ・リベラの壁画「デトロイトの産業」を前に、同館理事を務める大光敬史(おおみつたかし)現地日本商工会顧問は日本とのつながりをそう解説した。

 しかし、繁栄を極めた都市は70年代以降、日本車の台頭などにより深刻な打撃を受ける。中心部は治安が悪化し「全米で最も危険な都市」といわれた。人口は70万人を割り、2013年には財政破綻した。

 灯火が消えたダウンタウン。だがその街は、奇跡の復興を遂げた。午後9時を回っても目抜き通り沿いのパブは人であふれんばかりだ。

 その通りをひときわ目を引く彩りの車両が行き来する。復興の一翼を担った次世代型路面電車(LRT)「Qライン」だ。17年に開業し、南北5・3キロを結ぶ。沿線にはメジャーリーグ「タイガース」の本拠地や同美術館があり、以前朽ち果てた地区のあちこちでホテル、オフィス、住宅などの開発工事が進む。

 自動車の聖地でなぜLRTが必要だったのか。「車だけでは駄目。さまざまな移動の選択肢を用意することで完全な街になると考えた」。Qラインを運営するM1(エムワン)レール社広報担当のサマー・ウッズさんは解説した。

 同市で公共事業を担当するゲイリー・バラックさんは「ダウンタウンには駐車場が少ない。郊外に駐車してQラインで行き来すれば安く済むし、混雑も起きない」と指摘した。

 モーターシティーからモビリティシティーへ。街の活性化を支えたのが多様な交通手段だ。

 市が運営する路線バスは市内を網の目状に走り、24時間運行する路線もある。87年に開業した新交通システム「ピープルムーバー」はダウンタウンを環状に周回。シェアサイクルはもちろん、スマートフォンアプリで決済する「シェア電動スクーター」で移動する若者の姿も珍しくない。

 昨年には、地元の不動産開発会社が社員送迎用として、自動運転車を導入。短距離だが、実際に乗客を乗せて公道を走行している。

 「TOD(公共交通指向型開発)」を重点計画として多くのプロジェクトを展開するデトロイト市。好循環が生まれつつある中、同市開発担当のジャネット・アッタリアンさんは「Qラインはその中の一つのピースなのです」と胸を張った。