井上久雄さん

井上久雄さん

 戦時中に軍馬の管理をしていた祖父から話を聞いたという、さくら市、井上久雄さん(65)の投稿です。

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 明治生まれの祖父は馬車引きでした。荷物を積み、東京の方まで運んでいました。馬車の車輪や蹄鉄(ていてつ)などが納屋にあったのを覚えています。

 馬の扱いにたけた祖父に戦時中、陸軍から依頼がきました。自宅のある旧熟田(にいた)村(現さくら市)で軍馬を預かることになったのです。

 農耕馬と違い、体格が立派でした。農業も営む祖父はある時、軍馬を田んぼに連れ出しました。力があるので「農作業がはかどるだろう」と考えたのです。

 しかし、田を耕すことを知らない馬では作業が進みません。むちでたたき、傷を負わせてしまいました。

 そんなときに限って、馬の状態を見に軍人がやって来ました。「叱られるのではないか」。祖父はドキドキしていましたが、軍人は馬の傷を見ても気づかないふりをして、帰りました。優しい人だったのでしょう。

 軍馬はやがて戦地へ出向きました。過酷な労働を強いられ、水も十分に与えられず、口から泡を吹いて、体力のない馬から次々に死んでいったそうです。

 生まれた地に帰れた馬はいなかったことでしょう。戦争は馬たちにも悲しい生涯をもたらしたのです。