高年齢者雇用安定法や雇用保険法などの改正案を可決、成立した参院本会議=3月

 70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする改正高年齢者雇用安定法などの関連法が成立し、来年4月に施行される。少子化による人手不足を解消し、社会保障制度の担い手を増やすのが狙いだ。就労意欲のある高齢者の活躍の場は広がるが、その「多様な働き方」には危うさも。識者らに課題を聞いた。

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 現在は(1)定年廃止(2)定年延長(3)継続雇用制度-のいずれかの方法で、希望者を65歳まで雇うことが企業に義務付けられている。改正法は、従来の方法に(4)起業やフリーランスを希望する人への業務委託(5)自社が関わる社会貢献事業への従事-を追加。企業は五つの選択肢から働き方を選び、希望者が70歳まで就業できる機会の確保に努める。

「フリーランスが法的保護の対象外になることはコロナ禍でも注目された。高齢者の働き方に適用するリスクを考えるべきだ」と話す竹信三恵子さん

 「健康寿命が延び、『人生100年時代』などの言葉とともに高齢者も働くという機運が醸成されてきた」。労働政策研究・研修機構の大隈俊弥(おおくまとしや)統括研究員は指摘する。企業には「意欲と能力があれば年齢は関係ない」という意識が広がる一方、少子化で若年層の採用が年々難しくなっている現実もあるという。「人口減少社会の支え手をいかに増やしていくか。その課題に早い段階から向き合う必要があります」

 昨年の「老後資金2千万円問題」など年金生活への不安が高まる中、今回の法改正が、原則65歳の公的年金の受給開始年齢をさらに引き上げる「地ならし」になりはしないかと危ぶむ声も多い。

 連合は、受給開始年齢の引き上げを行わないことを前提に、法改正に賛成の立場を取る。昨年末に仕事を持つ千人に行った調査では、60歳以降も働きたいと思う人の理由は「生活の糧を得るため」が77・0%と最多で、2位「健康を維持するため」の46・2%を大きく引き離した。

 総合政策推進局の仁平章(にだいらあきら)総合局長は「年金だけでは大変だから働かざるを得ない人が多いのに、受給開始が引き上げられれば生活設計そのものが成り立たなくなる」とくぎを刺す。

 最大の懸念は、新たな選択肢の「起業やフリーランスへの業務委託」などは企業と雇用関係がなくなり、労働者保護の関係法が適用されない点だ。例えば、高齢者は身体機能の衰えなどで労災に遭いやすいが、労災保険に原則入れず、最低賃金の保障もないなど不安定な環境に置かれる。

 導入には労使合意が前提となり、厚生労働省は今後、合意するべき内容などを省令で定め、指針をまとめる予定だ。和光大の竹信三恵子(たけのぶみえこ)名誉教授(労働社会学)は「企業が業務委託を選択すれば、雇用責任は持たず、働く側の自己責任になる。働かなければ生活できない高齢者はそれを断れず、働き方を『選べない』のが実情。生存権に立脚したセーフティーネットを手当てすることが必要です」と話している。