2020年の雇用統計が公表された。新型コロナウイルス感染拡大で、安倍前政権が誇った良好な雇用情勢は様変わりした。政府は巨額の費用を投じて失業を防ぐ構えだが、完全失業率は11年ぶりに上昇し、しわ寄せが真っ先に表れる非正規労働者数も初の減少に転じた。アベノミクスの“貯金”が底を突くのは時間の問題で、再度の緊急事態宣言に伴う経済活動の停滞で、正社員の雇用への波及を懸念する声も高まる。

 

 「1月は緊急事態宣言でさらに厳しくなるだろう」。29日の記者会見。田村憲久厚生労働相は、険しい表情で懸念を口にした。厚労省が公表した20年の有効求人倍率は、1・18倍。リーマン・ショックを超え、オイルショック以来45年ぶりの下げ幅となった。

 新旧政権はアベノミクスによって「400万人の雇用を新たにつくった」と繰り返し強調している。コロナ禍前の好環境を前提に、厚労省幹部も「求人数がもともと少ない状況から減ったリーマン後と、求人倍率が1倍を上回っている現状は全く違う」と説明する。

75万人分減

 ただ、安倍政権下ではこの間、パートや契約社員など非正規労働者が約250万人も増加。うち20年の1年間で非正規雇用が75万人分失われた。コロナ関連の解雇・雇い止め数も8万3千人を超えた。新規求人数は前年比21万人減で、今後も厳しい情勢が続く。

 菅義偉首相は1月の施政方針演説で「暮らしと雇用を守っていく。それが政治の責務です」とも強調した。政府は感染拡大が始まった昨春以降、経営が悪化した企業の休業手当を肩代わりする「雇用調整助成金」の負担軽減など特例を相次いで導入。中小企業向けには従業員が直接申請できる「休業支援金・給付金」を新設するなど雇用を守る施策をとってきた。

 民間試算では、こうした施策は失業率を0・7%前後抑える効果があったとされる。一方で支給決定額は計2・7兆円超。特例は繰り返し延長され、21年度にも財源が枯渇しかねない。

実質的失業

 影響は特に女性や若者に及ぶ。厚労省や日銀によると、昨年12月時点で大学生の就職内定率は、前年同期比4・9ポイント減の82・2%。21年度の新規採用計画は6・1%減で、新規採用を絞る動きは当分は続く見通しだ。

 女性は、宿泊・飲食業や生活・娯楽サービス業など、特にコロナの影響が大きい業界で働く比率が高い。20年の非正規労働者の減少数は男性の26万人に対し女性は50万人と約2倍。野村総合研究所の推計では、約90万人のパート・アルバイト女性が休業手当を受け取れないまま勤務時間が半分以下になる「実質的な失業」状態にあるとされる。

 年度末は非正規労働者の契約更新が集中する時期でもあり、雇い止めの増加も懸念される。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎(さいとう・たろう)経済調査部長は、1月以降の感染者増や緊急事態宣言で再び経済が冷えこみ、失業率は21年4~6月期に3・5%前後まで悪化すると予想する。

 斎藤氏は、昨夏をピークに非正規労働者の減少ペースがおおむね鈍化傾向にあると指摘。「休業手当をいつまでも出すわけにはいかない。21年度は希望退職や採用抑制の形で、正社員への雇用調整が本格化するのではないか」と話す。