自動車大手の春闘労使交渉が本格的にスタートした。デジタル時代の人材確保を理由に実力主義の賃金配分へと傾斜する経営側に、危機感を共有するトヨタ自動車やホンダの労働組合が同調。従来の年功序列が揺らぎ、日本型雇用慣行は重大な岐路に差し掛かっている。

 「世界を見回すと、ほとんどの自動車市場が低迷している。新型コロナウイルスによる肺炎で国内外の生産が止まり、今後もどうなるか分からない」。自動車大手の各労組が春闘要求書を提出した12日、記者会見した自動車総連の高倉明(たかくら・あきら)会長は業界を取り巻く環境の厳しさを訴えた。

■強気封印

 今年の春闘では、難しいかじ取りを迫られる経営側の事情をくみ、労組が自ら要求水準を抑える動きが目立つ。ベースアップ(ベア)は控えめで、ボーナスに当たる一時金要求は主要8社のうち6社が前年を下回った。ある大手労組幹部は「先行きに明るい材料が何もない状況で(経営側に)ふっかけるような要求はできない」と明かす。

 自動車産業は電動化や自動運転など「100年に一度」とされる大変革のまっただ中にある。競争を勝ち抜くには次世代技術への多額投資が避けられない。今春闘では、トヨタの労組が個人の実力を踏まえてベア額に差をつける異例の要求を示し、ホンダも賃上げ原資の一部を人事評価に応じて配分する初の試みを提案した。一律のベアを強気に求める従来通りのスタイルでは十分な回答を引き出せないとの判断もあったとみられる。

■変化の流れ

 変化は自動車にとどまらない。大手電機各社では、能力に応じて新入社員を厚遇で迎え入れる動きが盛んだ。三菱UFJ銀行の労使は今春闘で行員一律ベアを廃止し、個人の人事評価に基づいて賃上げ率を決める仕組みの導入を検討する。

 ヤマハ発動機の日高祥博(ひだか・よしひろ)社長は12日に東京都内で開いた決算会見で春闘について問われ「やはり努力した者、成果を出した者がきちんと報われる賃金制度になるよう協議したい」と強調した。

 世界的な保護主義の高まりや新型肺炎の脅威など「前例のない緊急事態」(大手労組関係者)の状況下で迎えた今春闘。労使協調路線が大きな流れとなる中で、一律のベア要求を通じて従業員全体の賃金を底上げしてきた春闘の意義が薄れていくことの是非を問う声はかき消されがちだ。