スプリントで焦らなくなった

 

―2016年のインタビューでは、スプリント勝負に臨む心情を「恐怖心のねじのようなものを緩めるように」と語っていたのが印象的でした。今、スプリンターとしてのご自分の変化や成長を感じていますか。

 ゴールスプリントでも焦らなくなりましたね。昔はすぐに頭に血が上って熱くなっていましたけど(笑)、年齢とともに落ち着きが出てきたというか、周りがよく見えるようになってきたのかもしれません。今年で32歳ですからね(笑)。ただ、今は各チームの力が拮抗していて組織だってスプリントに向かうようになっています。例えば、ブリヂストン、マトリックス、シマノ、ブリッツェンといったチーム同士の激突になるので、以前のようにスプリンターが単騎で勝つというのが難しく、チーム力が非常に重要になっています。展開によってどのチームの誰が勝ってもおかしくない状態になりますから、一つのタイミングによって勝負が決まってしまうこともあります。

 やはり16年のインタビューで、大久保はエースとしての自分を支えてくれるアシストの選手に対するこんな思いも口にしていた。

 「自転車ロードレースというチーム競技は、アシストの選手がいなくては勝てません。他人のために一生懸命働いても自分には決して光が当たることがないというその役割を残酷と感じることもあります。でも、自分の気持ちを押し殺して仕事を全うするという格好良さもあるじゃないですか。そうしたアシスト選手たちの強さが、このチームの強さを支えているんだと思います」

 当時から大久保はステージレースなどで絶対的エースの増田成幸を献身的にアシストしていた。今季は増田の東京五輪代表獲得をかけた「勝負の年」となるだけに、大久保にもアシストも含めたチームプレーがより求められることになるだろう。

チームの雰囲気づくりも

 

―今季のブリッツェンで求められている役割をどう考えていますか。

 自分ももうベテランの域にきていますから、3シーズン離れて他チームで経験してきたことをこのチームに落とし込むことが重要と考えています。レースでは自分が狙えるチャンスもあると思いますが、アシストや、スプリントでの列車役(ゴール直前までエースを引っ張る役割)にも全力で取り組みます。レースの時ばかりでなく、後輩の指導やチームの良好な雰囲気づくりも含めて自分の役割はいろいろあると思っています。

―チームの前半の大きな目標に増田選手の五輪代表獲得がありますね。

 増田さんの五輪出場はチームの最大の目標でもあります。もし自分が一緒に国際レースに出るときは増田さんのアシストを一生懸命やっていきたいと思っています。

―今シーズンの個人としての目標を教えてください。

 やはり国際レースで勝ちたいですし、JPTでも1勝はしたいです。もちろんチームのオーダーによりますから、とにかく与えられた仕事をきっちりとこなしていきたいと考えています。

―オフにはどのように過ごしていますか。

 カフェでまったり過ごしたり、買い物をしていることが多いですね。自転車だけでなく車も好きなので、仲間たちとゴルフや釣り、バーベキューなどにもよく出かけています。

―最後にファンへ復帰メッセージをお願いします。

 ブリッツェンのファンは、別のチームに移ってもレース会場で声援を送ってくれるので本当にありがたいと感謝していました。そんなチームにまた戻ってこれて非常にうれしく思っています。チームの成長に負けないように自分も頑張らなければと思っていますので、また応援をよろしくお願いいたします。

 

大久保陣 おおくぼ じん 

 1988年10月8日生まれ。大阪府出身。184㎝、66㎏。スプリンター。2013年にチーム右京でプロ生活をスタートし、翌14年から16年まで宇都宮ブリッツェンに在籍。14年と15年にJプロツアー(JPT)白浜クリテリウムを連覇したほか、16年には国際レースのツール・ド・熊野の最終第3ステージ、JPT維新やまぐちクリテリウムで優勝を飾った。17年と18年はチームブリヂストンサイクリング、19年はキナンサイクリングチームで活躍。

(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.35に掲載)

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