南アフリカ戦勝利「うれしかった」
國學栃木を卒業後、明治大学で活躍。ポジションもフルバックからCTB、SOへと変わる。
2011年、明大を卒業後はNECに入った。12年4月、アジア5カ国対抗のカザフスタン戦で日本代表として初キャップを獲得した。15年2月から3月まで、スーパーラグビーのハイランダーズで練習生として参加。そして15年8月、エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)が指揮するワールドカップ2015イングランド大会の日本代表に選出された。田村自身初めてのワールドカップだった。
この大会で日本は、ワールドカップに2度優勝している南アフリカに歴史的勝利をおさめた。田村はこの試合に後半32分から出場した。

この試合で日本は南アフリカに対し、低く突き刺さるようなタックルを決め、スクラムも負けていなかった。前半、五郎丸歩がペナルティゴールを決め先制。しかし、南アフリカのフォワードに押し込まれ逆転を許す。それでも日本は南アフリカに食らい付いていき、前半は10-12で折り返した。
後半も一進一退の攻防が続く。一時は7点差まで離されるが日本は諦めなかった。残り10分で田村はスタンドオフの小野晃征と交代し、ピッチに立った。
後半ロスタイムに得た反則で日本は、PGかスクラムかを決断する状況になった。PGなら同点となる。しかし、スクラムを選択すればつないで逆転トライを取れる可能性がある。逆転に賭けて日本はスクラムを選択。その決断が結果として日本の歴史的勝利に結びつくことになった。
「うれしかったです。勝つという気持ちで試合に臨んでいました。4年間積み上げてきたものが最後に出たなと思いました」。スポーツ史上屈指の番狂わせを演じた一人である田村はこう振り返った。
「試合を見て。それが一番」
それから3年。このジャイアントキリングによって日本でのラグビー人気は少しずつ高まっている。2019年に日本開催のワールドカップも控えることを考えれば、もっと盛り上がってもいいように思う。
16年1月。日本ラグビー協会は南ア戦で日本を勝利に導いたエディー・ジョーンズHCの後任として、ジェイミー・ジョセフ氏の就任を発表した。ジョセフHCはニュージーランド出身でオールブラックスのFWとして1995年ワールドカップに出場。2011年から世界最高峰のリーグスーパーラグビーのハイランダーズを指揮し、15年、優勝に導いている。厳しい練習で選手を鍛え上げるエディーに対し、ジェイミーはどうなのか。
「ジェイミーもきついですよ。根本的なところは変わらないと思います。まあ、ジェイミーは選手に主体性を持たせたいというところがありますね」
6月9日のイタリア戦では、後半21分の堀江へのキックパスだけでなく、同26分にはFB松島幸太朗にもキックパスし、とどめのトライを導いた。
「いつも絶妙なところにボールを蹴りますね」と質問すると、「周りから『空いているよ』と声がかかるので蹴っているだけです。そこに落とせる準備はいつもしています」という。
このテストマッチ3戦での自身のプレーについて「課題はもちろんあります。いい所と悪い所が見えてきたのはよかったと思いますね」と総括した。
ワールドカップ2019日本大会に向け、16年からスーパーラグビーに参戦しているサンウルブズは、世界レベルの相手と毎週のように実戦が積める貴重な機会にメンバーは日本代表レベルの選手で18年からはジェイミーが日本代表とともにサンウルブズの指揮も取ることになった。田村も主要メンバーの一人だ。
世界の強豪が相手だけに、年間約15試合で1勝できるかどうかというのがサンウルブズの現状だ。
「サンウルブズは代表でゲームをするために調整する場所という位置づけになります。試合のレベルでいうとやはりテストマッチのほうが高いです。代表の試合は国対国の対決という事もあり雰囲気が違います」
19年のワールドカップまで1年を切った中で、今年11月3日には世界最強といわれるニュージーランド、同17日にはイングランドとのテストマッチを控えている。ワールドカップを盛り上げて、日本が上位に食い込むためにはこの試合の結果は重要になってくる。しかもイングランド代表監督は前日本代表HCのエディー・ジョーンズであるだけに、成長したところを見せないわけにはいかない。
「今は11月のことしか考えていません。どちらの試合も勝ちたいですね。そのために個人の能力をワンランク上げて、チームに貢献できるようにしたい」
そのエディーについて聞きだそうとすると、田村は「エディーの話はもういいでしょう」と言って遮った。
エディーHCの下で成し遂げた歴史的快挙はもう過去のこと。田村の心の中には11月に行われるイングランド、ニュージーランドとのテストマッチに向けての準備がすでに始まっているのだろう。そう感じた。
ラグビーというスポーツを盛り上げるためには日本代表が強くなることもさることながら、若手の育成や子どもたちにラグビーの素晴らしさを伝えていくことが不可欠だ。田村はどう考えているのか。
「まずは試合を見にきてもらいたいです。それが一番、ラグビーの素晴らしさが伝わると思います」
田村の印象は天才肌の寡黙なラガーマンという印象だった。将来の夢を聞いてみた。「特にないですね。まずは目の前のことをやるだけです」。「國學栃木の後輩に伝えたいことは」との質問には「楽しんでラグビーをしてほしい」と語った。

(SPRIDE2018年10月号に掲載)