学べて成長できた広島の3年間

―広島への加入の経緯を教えてください。

 スカウトされたわけではなくて、自分から売り込みました。チームに大学の先輩がいたので、先輩を通して希望を伝えたんです。広島というチームが、ちょうど若手育成重視に方針転換した時期だったので運が良かったのだと思います。

―広島での3年間を総括するといかがですか。

 デビューの年は、JPTの宇都宮ロードレースで10位、石川サイクルロードレースでも10位となり、他の厳しいレースも完走はできていたので結構良いスタートだったと思います。ただ、2年目は約20レースに出場して半分くらいしか完走できませんでした。ケガはなかったのですが、オフシーズンに明確な目標を持ち得ないまま練習していたためシーズンインしてもうまくいかなかったのだと受け止めています。それがあって、昨シーズンは勝負の年だと思って取り組みました。練習内容を変えただけでなくて、食事など生活全般を改善して一生懸命取り組んだ結果、群馬で優勝できたという感じです。ですから広島時代を総括すると、波はありましたけど、いろいろ学べて成長できた3年間でした。

―JPT初勝利を挙げた群馬CSC交流戦9月大会Day-1を振り返ってください。

 交流戦は、JPTの選手だけでなく下のカテゴリーのエリートの選手も一緒に戦うレースでした。ブリッツェンやブラーゼンなどの強豪チームは同じ日のツール・ド・北海道に参加していたので、あまり強い選手は出場しないはずだったんですけど、実際にはブリヂストンサイクリングやマトリックスパワータグの選手も出ていて「話が違うじゃないか」となったんですけど(笑)。ですから、誰もがブリヂストンとマトリックスの2チームがレースの主導権を握り、そのどちらかが優勝すると予想したと思います。でも、レースでは両チームがけん制し合う展開になるので、僕はむしろそれがチャンスだと思っていました。ゴールから1㎞手前に「心臓破りの坂」という、1分未満で登れる勝負の坂があり、最後の1周にそこで10番手以内をキープし、両チームの選手が見合った瞬間をついて抜け出せればそのままゴールを狙えるのではと考えていました。実際、チームメートの力でそうした展開に運んでもらい、ラスト1周のその瞬間に僕が4番手という理想的なポジションで入れ、先行する選手同士が見合った瞬間に「ここだ」と思って抜け出せて優勝できました。自転車競技を始めてロードレースで優勝するのは初めての経験だったので、やはりうれしかったですね。ゴールラインを先頭で切るというのが新鮮で気持ち良かったですし、これはやみつきになりますね(笑)。

一人で局面打開できる技術力を

 

―ロードレーサーとしての一番のセールスポイントは何ですか。

 広島時代に監督から「1分から2分ぐらいかかる坂道なら日本トップクラスで走れる」と評価していただいていました。ですからレースを組み立てるときはそこで勝負を仕掛けようという作戦でしたし、それが最高にうまくいったのが群馬でのレースでした。

―逆に課題と捉えてレベルアップを図りたいところは。

 自分はクリテリウムなどの密集している中をかいくぐって走る技術が劣っていますし、ダウンヒルもあまり得意でないので、そうした技術を磨いていきたいですね。昨年はチームメートのアシストのおかげで良い位置から勝負できましたが、やはり厳しいレースになって自分一人しかいなくなった時に独力で打開できる技術力が不可欠と考えています。

―現在のチームについてどのように感じていますか。

 昨年はレースでチームの連携があまりうまくいかなかったのかもしれませんが、メンバー個々の能力は高いですし、チームとして十分勝てる要素はあると思います。自分が必ずしもエースになれるわけではないと思うので、どんな展開になっても誰かが最後に勝負できるようチームとしての連携を強化したいと考えています。自分一人で局面を打開できる技術があれば、自分でもいけるし、勝ちに一番近い人のために走ることもできます。そういう意味でオールマイティーに役割を全うできる選手になりたいと思っています。

―目標にしている選手はいますか。

 最近、宇都宮ブリッツェンの増田(成幸)選手と一緒に坂を走る機会があったのですが、力強さに圧倒されました。やはり増田選手は日本のトップ選手だと思うので、目標にしたいですね。

―今シーズンの具体的な目標はどこに置いていますか。

 昨年は1勝できましたが、今年はもっと勝ちたいと思って移籍したということがあります。小さい頃からの「日本一」を目指すなら、それはやはり全日本選手権での優勝だと思いますし、JPTのリーダージャージ(個人総合トップ)を目指したい気持ちもあります。とにかく今年は勝利だけを目指して走りたいと考えています。

 

大きかったベルギーでの草レース体験

―将来的に海外挑戦をしたいと思うようになったきっかけは。

 2018年シーズン夏でJPTが中断していた時期にチームメート2人とベルギーに3週間ほど滞在して草レースを体験したことが、自分にとっての大きな転換機になっています。草レースといっても、めちゃくちゃレベルが高くて衝撃を受けました。その時に「海外で勝てる選手になりたい」と強く思いましたし、その後、日々の取り組みを改善していくことにつながりましたから。やはり将来は海外で活躍できる選手を目指したい気持ちが強いですね。

―オフの日には何をしていますか。

 本を読むか、映画を観るかですね。最近観た映画では「蜜蜂と遠雷」が良かったです。ピアニストになるために人生をかけてきた人間たちの物語で、自転車の世界に通じるものがあります。本は小説でも漫画でも何でも好きで、今は渋沢栄一の「論語と算盤」を読んでいます。それとランニングが好きで、休みの日も10㎞ぐらい走ります。ランニングすると頭の中をすっきり整理できるので気分転換にちょうどいいし、足腰を鍛えられれば自転車にも生きてきますから。那須は山が多いので、今後はトレールランにも取り組みたいと思っています。休みの日も、常に自転車に有益なことをしたいと考えてプランニングしている感じですね。

―「順成」というのは素敵な名前ですね。

 京都に「順正」という名前の、「ゆどうふ」で有名な京料理屋さんがあって、湯豆腐が大好きな母がそこからつけたそうです(笑)。母がくれた名前なので気に入っていますし、その名前を多くの人に知ってもらえることが親孝行になるかなと考えています。

―最後にファンへのメッセージをお願いします。

 チーム全員に「今年こそ」の意気込みが強いですし、新たに加入したメンバーもみんな「もっと上に行きたい」と思っていると感じました。自分もそういう思いでここに来たので、ブラーゼンの一員として勝ちたいのが一番ですし、那須の全ての人たちと勝利の喜びを分かち合いたいと思っています。ぜひ応援をよろしくお願いします。

 

谷順成 たに じゅんせい 

 1984年8月4日生まれ。岐阜県出身。171㎝、68㎏。オールラウンダー。関西大学自転車部を経て、2017年シーズンからヴィクトワール広島でプロ生活をスタート。19年、Jプロツアーの群馬CSC交流戦day1でプロ初勝利を飾ったほか、東広島サイクルロードレース4位、南魚沼ロードレース7位などの戦績を残した。20年シーズンから那須ブラーゼンに在籍。

(この記事はSPRIDE[スプライド] vol.35に掲載)