戦禍の残像 継がれる痛み ①戦争PTSD(上)

酒に溺れた復員兵 影付きまとう父の記憶

 戦中に撮影された1枚の白黒写真。海軍の制服に身を包んだ精悍(せいかん)な顔つきの若者が家族と並んでいる。

 

 千葉県茂原市在住、歴史研究家久野一郎(ひさのいちろう)さん(69)=宇都宮市出身=の父義男(よしお)さんの青年時代を写したものだ。

 

 「気合が入っているよね」。久野さんが写真を指さし、語り出す。自身が知る戦後の父の姿と、写真の青年は似ても似つかないという。「表情が変わってしまった理由は、あの戦争にあるとしか思えないんだ」

 

 復員後、酒に溺れた義男さんは38歳の若さで死去した。戦禍で負ったであろう父の「心の傷」の存在に気付くまで、久野さんは長い時間を要した。