遺構は語る

戦後80年。戦争体験者の多くが鬼籍に入り、戦禍の記憶は薄れつつあるが、人知れず立つ碑やひっそりと残る跡が、あの大戦を後世につないでいる。県内各地の痕跡を随時紹介する。
 

 

傷病兵癒やした湯治場

米機通過 避難時に大火

 

 ほのかな硫黄の香りが漂う那須町湯本の那須温泉街。1390年以上の歴史を誇る古来の湯治場にも戦争の影は忍び寄った。

 

 

 

 1943年秋、十数軒の旅館が軍に借り上げられ、「宇都宮陸軍病院那須分院」へと姿を変えた。松川屋(現・松川屋那須高原ホテル)が本部となり、戦地からの負傷兵や肺結核・マラリアなどの患者ら300人以上が療養。各旅館の従業員は軍属として勤務した。

 

栄華を誇った昭和初期の那須温泉を写した絵はがき。戦時下に本部が置かれた松川屋(右奥)が写る=那須温泉昔語り館・阿久津靖彦館長提供
栄華を誇った昭和初期の那須温泉を写した絵はがき。戦時下に本部が置かれた松川屋(右奥)が写る=那須温泉昔語り館・阿久津靖彦館長提供