「これまでの出版、これからの出版」 作家 門井慶喜氏

 しもつけ21フォーラム(下野新聞社主催)の3月特別例会が2日、宇都宮市内で開かれ、第158回直木賞を受賞した同市出身の門井慶喜(かどいよしのぶ)さん(46)が「これまでの出版、これからの出版」と題し講演した。

 片道16キロを自転車通学した宇都宮東高時代を振り返り、「前の日に読んだ小説のシーンを入れ替えたりしながらペダルを踏んだ」と懐かしんだ。歴史好きの父親の影響で史学専攻のある同志社大に入学し、作家を志した経緯も紹介した。

 受賞作の「銀河鉄道の父」は、宮沢賢治(みやざわけんじ)の生涯を父政次郎(まさじろう)という新たな視点で描いた作品。「資料を集めるうち、厳しい父である反面、賢治を深く愛する人物像が出来上がった」と話し、「ゼロから1を生み出す作業が最も大切。資料や自分のイマジネーションとの闘いだった」と打ち明けた。

 若き日の伊藤博文(いとうひろぶみ)を描いた「シュンスケ!」や「東京帝大叡古(えーこ)教授」などの著書についても創作者の立場から説明。「自分が歴史に飛び込んで内側から見詰めることができるのが歴史小説を書く魅力」と語った。

 印刷技術は進化したものの、文字を並べるという小説の方法は変わらないと指摘。「読者の想像力に期待するのが小説メディアであり、読者と作家が一体となって作品世界ができる。これからも僕の作品に注目してもらえればありがたい」と結んだ。

 講演後の質疑で「徳川慶喜(とくがわよしのぶ)について書くことは考えているか」と質問されると、「自分の名前をもう少し客観的に見られるようになったら書けるのではないか」と答えた。

 聴講した宇都宮市宝木本町、会社員寺崎浩文(てらさきひろぶみ)さん(55)は「門井さんと同じ宇都宮市国本中の卒業なので親しみを感じる。本県出身の作家として大いに活躍してほしい」と期待した。