
生まれ育ったふるさとなどを応援するために寄付をすると、返礼品の受け取りや税金の控除などのメリットがある「ふるさと納税」。寄付を通じてつながった人々の新たな〝心のふるさと〟になった自治体・地域の取り組みや、ふるさと納税に協力する地元生産者が、返礼品に込めた熱い思いなど、ふるさと納税を巡る〝今〟をご紹介します。
応援する側 される側
ポイントはなくなりますが…
ふるさと納税は、人気の高まりとともに返礼品の競争が過熱し、今年10月からは「ふるさと納税」仲介サイトを通じた寄付の際のポイント付与が禁止されます。
物価高が続く中では、どうしても〝もの〟や〝お得〟の方に視線が注がれ、忘れられがちなのが本来の趣旨である〝ふるさと応援〟。きっかけは〝もの〟への関心かもしれませんが、寄せられた寄付金は、被災地支援や、地域の子育て・教育、福祉や医療、環境保護や防災などさまざまな問題解決のために使われています。
応援を続けてもらうためには、各自治体もしっかりとふるさとの魅力も伝えておきたいところでしょう。
〝お得〟から地域の魅力へ
近年では、その土地ならではの温泉やグルメ、レジャーを満喫してもらう体験型の返礼品も人気を集めているようです。
また日光市の「鬼怒川温泉あさや」のようにQRコードを読み込むだけで、ふるさと納税の現地決済ができて、宿泊代金や飲食代などに使える電子クーポンが利用できる施設も増えています。
ポイント付与禁止 本来の「目的」へ
「ふるさと納税」は自分のふるさとや応援したい自治体を選んで寄付をすると、寄付額から2千円を除いた額が住民税や所得税から減額される制度。寄付した自治体からの返礼品もあり、寄付者にはメリットがあります。
また、多くの仲介サイトでは寄付額に応じてポイントを付与するサービスを行っており人気です。しかし10月1日からふるさと納税のすべての仲介サイトを対象に、寄付者にポイントを付与することが禁止されます。
各自治体の負担軽減と、ポータルサイト間の競争過熱で本来の地域支援目的から懸け離れているとの懸念を解消するためです。
廃止前の9月末までに駆け込み寄付を予定している人も少なくないと思われます。各サイトでもキャンペーンなどを展開するところもあるでしょう。「お得」を活用することはよいのですが、需要が集中して人気返礼品は品切れや配送遅延の恐れがあることも承知しておく必要があるかもしれません。
ふるさとを盛り上げる力に
返礼品の生産者に聞く
「ふるさと納税」に返礼品は大きなメリット。魅力的な返礼品はその地域の魅力そのものをアピールできるチャンスでもあります。返礼品で地域を盛り上げている生産者の熱い思いを紹介します。
農の魅力と作物 全国へ
真岡 YB.DRAGON Farm代表
吉田 龍星さん(26)

真岡市東大島で自社ブランドの白いトウモロコシ「美白の甘姫」を栽培する〝トウモロコシ王子〟ことYB.DRAGON Farm代表の吉田龍星さん(26)。イチゴが特産品の真岡市で、生産の少ないトウモロコシに着眼。白い色と生でも味わえる格別な甘さが人気を呼んでいます。
真岡北陵高を卒業後、市内の企業に就職。3年間の勤務を経て農家に。ベテラン農家の祖父母らと昔ながらの農業を大切にしながら、SNSを活用して美白の甘姫と共に自身がモデルとなり発信します。2㌶の畑で例年6万本を収穫するという美白の甘姫は、7~8月がシーズン。今年は8月上旬で収穫を終えました。
猛暑が続く8月半ば過ぎ。吉田さんの田んぼでは、同じく返礼品のコシヒカリの稲穂が実り始めていました。「草のないきれいな田んぼにしています」と話す吉田さん。稲穂を手に取り、順調な生育を確信していました。
返礼品の協力をするに当たって、吉田さんは「美白の甘姫を全国の人に知ってほしい。そして、自分のように若くてもできる農業の魅力を広めていきたい。それが少しでも真岡市への貢献になればと思います」
2026年産の美白の甘姫は、9月1日から先行予約をスタート(数量限定)。米(玄米)は既に予約がスタートしており、9月の収穫後に順次発送予定です。

誇れる自然、丁寧に醸造
塩谷 「かんなびの里」小島酒造店
小嶋 拓さん(44).

「緑豊かな田舎の風景を守りたい」という、塩谷町のふるさと納税制度。返礼品には、町に2軒ある酒蔵のそれぞれの看板銘柄「かんなびの里」と「男の友情」を2本セットにした地酒を提供しています。
鬼怒川の伏流水と県産の酒米を使用して造り出される小島酒造店「かんなびの里」。酒蔵の南側には、昔ながらの田んぼの風景が広がり、すぐ近くには、つい最近県内で一番水質が良い地点と発表されたばかりの上平橋があります。「おいしい水のあるところなので、おいしい米もいろんな種類が作られているんですよ」と話すのは、6年前に6代目を継いだ小嶋拓さん(44)。
毎年蔵見学に訪れるという町内の児童には「豊かな自然環境があるからこそ、おいしい米や酒ができることを誇りに思ってほしい」と伝えています。
酒蔵の創業は明治初期。代表銘柄の「かんなびの里」は「神が宿る静かな田舎里」という意味で、元々は神職の家系であったことなどに由来しています。
国内最小クラスの酒蔵が生み出す栃木でしか飲めない買えない食中酒が売りで、米洗いから仕込み、瓶詰め、ラベル張りまで拓さんがほぼ一人で、手作業で行っています。
(問)同酒造店☎0287・46・0903。

物より思い出「返礼品」体験に注目
野岩鉄道を丸ごと堪能 日光市
観光地としての高い知名度を誇る日光市。ふるさと納税の寄付額は2019年度から6年連続で過去最高額を更新中。返礼品は日光を訪れた際に利用できる宿泊ギフト券や旅行クーポン券などが人気です。
昨年登場した、知る人ぞ知る大人の鉄道ファン向けの返礼品が野岩鉄道「駅員&留置車両まるごと体験」。
日光市の新藤原駅と福島県南会津町の会津高原尾瀬口駅を結ぶ野岩鉄道。1986年の開業時から活躍し、現在では国内で唯一、現役で走る車両となっている「6050型」を使った貴重な体験ができるもの。駅の窓口業務や放送体験をはじめ、普段は見ることのできない運転指令所の見学、パンタグラフ上昇下降やブレーキハンドル操作などの見学、車掌放送体験、車両の下回りを含めた撮影会など充実した体験メニューが用意されています。
体験場所は新藤原駅構内で、日時は8月から10月までの土日を中心に開催(要相談)。1日1人限定。18歳以上を対象としたふるさと納税の返礼品で、寄付額は10万円。

動物とふれ合い楽しむ 那須町

人気の避暑地として毎年多くの観光客が訪れる那須町。ふるさと納税として、豊かな自然の中での動物とのふれ合い体験も町ならでは。
ライディングクラブジョパール那須が提供するのは、那須高原の大自然の中を馬に乗って散策する「那須高原ホーストレッキング」。静かな森林や草原が広がる中を初めての人でも安心して乗ることができるよう調教された馬に乗り楽しむことができます。馬上から眺める雄大な那須高原の景色はまた格別です。
小学5年生以上対象。体験時間は、基本レッスンとコーヒーブレイクを含む約2時間。ペア利用券で、寄付額は平日15万4千円、土日祝日、大型連休期間中は17万円。
那須高原で300頭以上の乳牛とヤギを飼育する今牧場。併設された工房で作られる「山羊のチーズ」が有名ですが、ふるさと納税の返礼品では、牛の乳搾りやバター作りの体験も提供しています。
土日祝日限定で体験時間は午後3~4時。平日の体験は応相談。ペアチケットで寄付額7千円。

自ら青竹打ち格別な味 佐野市
佐野市の返礼品には、名物の「佐野らーめん」のほか、「青竹打ちらーめん体験」もラインナップされています。長くて太い青竹に足を掛け、リズミカルに麺を打つ作業は、見るのとやるのでは大違い。体験後に味わう佐野らーめんは、より一層おいしく感じられるのでは。
「佐野らーめん 佐よし」では、子どもでも体験できるよう踏み台を用意。麺切りもオートマチック包丁を使い安心して麺づくりを楽しむことができます。終了後には好みのスープを選んで1人1杯ラーメンを味わうことができます。
体験チケット(2人分)で寄付額は3万7千円。
※店によって寄付額が異なります。