アスポリポーターが気になる仕事を体験し、その内容ややりがいなどを紹介するシリーズ企画「お仕事体験」。第3弾は「酪農」です。本県は生乳生産量本州1位を誇る酪農王国ですが、飼料価格や光熱費の高騰などで、酪農を取り巻く環境は厳しさを増しています。知っているようで知らない、牛乳を生産する酪農家の仕事。「朝はミルクたっぷりのカフェオレで始まる」と毎日愛飲しているリポーターHが、日光市の大笹牧場で仕事を体験してきました。


酪農王国とちぎ

新鮮! とちぎの牛乳
  おいしさの舞台裏

放牧場でのんびりと草を食む牛たち

 

国内では希少なブラウンスイス牛に餌やり

日光霧降高原 大笹牧場で体験

大笹牧場ってどんなところ?

育成から生乳加工まで担う

 日光国立公園内の標高1030~1380㍍に、総面積362㌶の広さを誇る高原牧場。県酪農業協同組合の預託育成牛の夏期放牧場として1957年に開設。現在は東京ドームの77倍という広大な草地で、ブラウンスイス牛約110頭(子牛を含む)、組合員の酪農家から預かった約300頭のホルスタイン育成牛の飼育管理を行っています。
 ブラウンスイス牛は毎日搾乳を行い、搾りたての生乳は牛乳のほかソフトクリームやヨーグルト、バター、チーズなどの乳製品に加工し、販売しています。
 ホルスタイン牛は、酪農家から子牛を預かり、種付け(人工授精)を行い初妊牛になるまで育成。夏期には広い放牧場で足腰を鍛えて丈夫な体をつくり、母牛となって酪農家の元に戻り乳牛として活躍します。
 また牧場を活用した新規就農者向けの研修システムがあり、酪農体験は一日から受け付けを行っています。

 

※体験シリーズは不定期で掲載します

 

 

 

飼育、搾乳、飼料栽培など
苦労も元気に育つ喜びに

 
 

 酪農の仕事について、一日のスケジュールを青木享場長(61)に教えてもらいました。
 大笹牧場では12人のメンバーで、ローテーションで作業しています。
 餌やりのタイミングなど農家によっていろいろパターンはありますが、搾乳や餌やり、牛舎の管理に加えて、牛のふん尿を堆肥にしたり、牧草をサイレージにしたりする畑仕事などもあります。朝から晩まで仕事内容が多岐にわたるハードな仕事です。

手をペロペロなめて大歓迎してくれた3、4カ月のブラウンスイス牛
子牛の哺乳を体験。元気に飲む姿にうれしさが込み上げた
乳牛への餌やり。配合飼料は重いけど、食欲旺盛な牛たちに餌をやるのは、やはりとても楽しい
手際良くスマートに大きなふんを片付ける青木場長
夕日が差す放牧場で最後の見回り

業務体験

重労働も牛に癒やされ
おいしさの理由…実感

10月初旬にいざ大笹牧場へ。
 用意してもらったゴム手袋、薄手の白いつなぎ服に着替え、長靴に履き替えると、まず生まれて3、4カ月のブラウンスイス牛が放牧されている柵の中へ。牛と触れ合うのは初めてでしたが、あっという間に寄って来て、ペロペロと私の手をなめる牛。人懐っこい子牛のかわいさに一気に緊張がほぐれました。
 次に2カ月の子牛の哺乳を行いました。指導してくれたのは、今春の新規採用職員の白石琴音さん(21)。「手で顎を軽く持ち上げて上を向かせて飲ませるのがコツ」ということで、やってみると元気にグビグビと飲んでくれました。なんだかうれしさが込み上げます。
 乳牛の牛舎に移動後、今度は牧草、トウモロコシや大豆かすなどの入った配合飼料の餌やり。ブラウンスイス牛は1日に約23㌔㌘の餌を食べ、約25㌔㌘の生乳が搾られるそう。250㌔㌘はあるという配合飼料の台車を押しながら、一杯にすると1㌔㌘くらいになるというスコップを手に牛の前に飼料をまいていきます。なかなかの重労働です。
 これだけ食べたら、ふんももちろん立派です。牛舎の清掃では、大きなふんをヒョイと片付ける場長の見事な手際に思わず見入ってしまいました。
 搾乳は機械化が進んでいるということで、搾乳ロボットを見学。乳頭洗浄やミルカー装着も全自動で、牛の足首に付けられたセンサーと合わせて搾乳量や搾乳時間などの情報もコンピューターで管理できるとのこと。
 最後は夕日が差す放牧場の見回りへ。この時はまだホルスタイン育成牛が放牧中でした。毎日牛の様子を観察して健康状態などを確認しているそう。いつかこの子たちの牛乳が飲めるのかなと思うとなんだか不思議な気分になりましたが、牧場での体験を通して、牛乳のおいしさの理由を身体を通して実感できたような気がしました。

 

 

 

 

青木享場長(中央)と、牧野課の田野井貴洋課長(左)

Q&A 青木場長と田野井課長にインタビュー

牛を愛し手塩にかけ育てる
飼料上昇など負担重く…牛乳消費拡大を!

 今、酪農家を目指す人たちはどんな人ですか。
 (青木場長)酪農家の後継者が多いのはもちろんですが、インターンシップで受け入れている学生を見ていると、「動物が好きで酪農をやりたい」という、普通のサラリーマン家庭で育った若い人たちがとても増えています。農場で働くスタッフもほとんど非農家出身です。
 酪農家に向いているのはどんな人ですか。
 (田野井課長)穏やかな人。気性の荒い人だと牛がビビッて萎縮してしまいます。組合員の酪農家の方たちは穏やかで牛をとても愛していて、仕事に真剣で熱意がある人ばかり。放牧中の300頭の牛の中からすぐに自分の牛を見つけ出す人もいるほどです。
 青木場長はどのような道のりを歩まれてきましたか。
 (青木場長)4年前に場長になりましたが、別の職務も兼ねていたので専属になったのは昨年からです。最初は事務で、若い頃には牧場の仕事のほか経理も担当しましたし、レストランでステーキを焼いていたこともあります。途中、学校にも通って食肉処理や精肉加工まで学びました。浅く広くですが、たくさんの人にお世話になっていろいろなことをやらせてもらえたことが今につながっています。
 やりがいを教えてください。
 (田野井課長)牛は手をかければ、かけた分だけ懐いてくれるし、健康に育ってくれるのが目に見えて実感できることです。
 物価高騰が続く中、酪農家も厳しい経営環境にあると聞きます。
 (青木場長)トウモロコシや麦、大豆かすなどの配合飼料は、大半をアメリカからの輸入に頼っています。円安や輸送費の高騰、中国におけるトウモロコシの需要拡大などで飼料コストが上昇。また光熱費の高騰も酪農家の経営に大きな負担となっています。今年8月に牛乳や乳製品の値上げが行われましたが、まだまだ値上げがコスト高に見合っていないのが現状です。
 県内では廃業する酪農家も相次いでいます。県産牛乳を積極的に飲んでほしいというのが酪農家の切実な思いです。


青木場長からメッセージ
 駆け足になりましたが、少しでも酪農の仕事を体験してもらったことで、牛乳に興味が湧いたのではないでしょうか。これからも新鮮でおいしい本県の牛乳をぜひ、飲んでほしい。

体験した感想
 朝ゆっくりと眠っていてはミルクは搾れない。早朝からの仕事にもかかわらず若いスタッフが多いことに驚きましたが、体験を通して酪農は若い人にとってもやりがいのある魅力のある仕事だと知りました。それゆえに離農が進む現状に切なさを感じます。
 県内で搾られた生乳が素早く加工され店頭に並ぶという、恵まれた状況を当たり前と思わず、本県の牛乳を毎日飲んで、そしてアピールもしていきたいです。

ブラウンスイス牛の牛乳は格別の味わい
ほどよい甘みとさっぱりとした味わいのブラウンスイスヨーグルト

キャンプなどレジャーや
土産、食事も楽しめる

とっておき情報

迫力の雪上ドライブ
スノーモービル体験

 12月下旬~3月中旬。要予約。乗車体験や特設コースのツーリングも行っています。ソリの貸し出しもあるので、小さな子どもでも楽しめます。

牛乳や乳製品がそろうショップや大人気のソフトクリーム、名物ジンギスカンが味わえるレストハウス