一つのテーマや話題に沿って人やグループを紹介する月イチ企画「Tochigi 人びと」。今回は「香り」のプロを紹介します。日常生活にはさまざまな「におい」があふれています。その中で良いにおいを大和言葉で「かおり」、漢語では「香気」と言うそうです。そうした香りを専門に扱う方々が登場します。

 

かぐわしき日常を演出 

 
「蘭と月」薫香士
樋口喜巳さん(66)=栃木


100年続いた線香店「一心堂」の元工場長で、県伝統工芸士。現在はとちぎ山車会館北に2年半ほど前にオープンした工場併設の線香とお香の専門店「蘭と月」でオリジナル商品の開発に取り組んでいます。薫香士という肩書きは、店主の大竹麻実恵さんが名付けたもの。  

お香の主な原料は漢方薬にも使われる伽羅(きゃら)、白檀(びゃくだん)、沈香(じんこう)や桂皮(けいひ)など。そこにベルガモットやローズなどのいろいろな香料を組み合わせて新たな香りを生み出します。脇役にほんのちょっと付け足した材料が思わぬ効果を発揮することも。

「父親の勧めもあり19歳の時に軽い気持ちで就いた仕事でしたが、線香作りは試行錯誤の連続で、自分の感覚も生かせて常に楽しかった。今はお香作りがメインで、若い人と接することが多くなりました」。インターネットで見つけて県内外から注文をくれる人たちや店が気に入って何度も足を運んでくれる人もいるそうです。   

「若い人が香りに興味を持って、楽しみながら年を重ねるうちにそれが生活の一部になってもらえたらうれしい」   

(問)同店☎0282・21・7787。

 

個人に合う調香で力に!  

 
「香り処 穂の香」アロマ調香師
舘野 倫子さん =栃木

 

「心に届く香りを届けたい」。天然100%の精油を使い、一人一人に合う香りを調合しています。  

長く教員をしていましたが、大病を患い、断腸の思いで早期退職。引きこもり状態のときにアロマテラピーに出合いました。香りに癒やされ、アロマの先生からの学びの言葉が心に響き、徐々に元気を取り戻せました。   

アロマに関わる中で、ストレスを抱える人から自分に合う香りを求められることが増え、香りの力を改めて感じました。「教員時代に子どもや保護者の悩みに向き合い、自分自身も人間関係で悩み、闘病の辛さを経験したからできることがある。香りを通して世の中の役に立ちたい」と思い、アロマパルファン(天然100%の精油を使った香水)を学びました。  

調香(アルマパルファンセッション)では、植物の特性やパワーを込めた世界に一つの香水を調合し、香りに言葉を添えて相乗効果を生み出します。そのほか、香りによる空間演出、香育(子ども向け香りの体験教育)、栃木市をイメージした香りの開発にも力を入れています。  

(問)舘野さん☎090・3691・6842。https://kaoridokoro-honoka.com/index.html

 

〝和〟にこだわり世界へ  

 
香り工房 株式会社ホリス代表取締役
山岸美貴さん(49)=茂木


フランスで香りを学び、会社を設立して21年。今までにメディカルアロマスクールから1000人を超える卒業生を送り出しています。  

宇都宮に住んでいた時期に、世の中に不純物の混ざった精油が多く出回り、安全に不安を持ち始めました。それまでフランスから輸入していた精油を自社で作る決意をします。目指したのは「自然なものだけで作る〝誰にも負けない〟和の香り」。  

「茂木のゆずで精油を作りフランスに持って行こう」と研究を始めました。粘度が高いゆずの香り成分は抽出が難しく、古口達也茂木町長や県内のゆず農家、宇大農学部の教授などの協力の下、試行錯誤を重ね抽出に成功。栃木での実績を元に、全国各地の無農薬農作物でもアロマ精油を作り、安全・安心な日本の香りをフランスに、世界に届けています。  

現在、会社は東京に。「栃木の農作物は丁寧に作られているので、あらゆる作物で精油を作りました。私にとって和の香りの原点は栃木県です」  

製品化された茂木のゆずアロマは「道の駅もてぎ」でのみ購入できます。  

(問)同社☎03・5789・5182、同工房(茂木町)☎0285・64・1003。

 

今、必要とする香り提案 

 
薬草専門店WEEDS 店長
中村久乃さん =那須塩原

 

「香りは私にとってなくてはならないもの」心地よいと感じる「良い香り」を生活の中に取り入れることが日常のルーティン。  

香りがもたらす効果の一つは、人の記憶や感覚に結び付きやすく、心のリラックスにつながると今年2月、アロマ約70種ハーブ約80種を取り扱う「薬草専門店WEEDS」をオープン。香りを通して体の悩みや不調を整えるアドバイスをしています。  

一般的に外用として使うアロマは、自分がかいで「心地よい」と感じるものが今、必要としている香り。直接かぐことでリラックスできます。また、内服用にシングルハーブを独自でブレンドし、20種ほどそろえたハーブティーは、香りと飲みやすさを重視。お湯で抽出した時と口に含んだ時の香りが楽しめ、アロマよりも、より優しい香りで日々に取り入れやすいと考えています。  

薬を使う前段階としてハーブやアロマを用いて対処できるようにと、予防医学に努め、メディカルハーバリストの資格も取得。「気になる体調の変化があれば相談に来てほしい。香りで毎日が少しでも幸せになればうれしい」  

(問)同店☎080・5543・0457。

 

 

心豊かになるひととき 

 
「香道古心流師範
増川碧峰(へきほう)さん(62)=宇都宮


古典文学や自然などさまざまな主題で香木の香りを「聞く」心静かな時間。習っていた茶道を通して知り、二十数年前に香道の世界へ。「いにしえの歌などに出合え、それを知るのが楽しかった。香りによって、昔の人と思いや風景を共有できるのです」と奥深い香道の魅力を話します。  

華道、茶道と並び日本三大芸道の一つと言われる香道は、香木の香りを鑑賞することにより、真の自己を見出す芸道と言われます。室町時代に足利義政の命により、形態が整えられました。  

江戸時代に生まれた古心流。香木の中でも特に六国(りっこく)と呼ばれる沈香(じんこう)を2種類以上聞いて行う組香で、香りと主題の世界を楽しみます。香りを聞き、当てるゲームのようなものですが、「当てることが目的ではなく、大切なのは、その香りを聞いてどう感じたかということです」と言います。  

師範である今も教室に通い続けています。「同じ香木でも人により感じ方が違います。そこが奥深く楽しいところです」。柔和な表情に生徒たちを魅了する人柄と心があふれているようです。  

(問)増川さん☎028・661・2133。