一つのテーマに沿って人やグループを紹介する月イチ企画「Tochigi 人びと」。今週は8月31日の野菜の日にちなみ農業に従事する人たちを紹介します。数多い農家の人たちから、今回は独自の思いを込めこだわりを持って土と対峙(たいじ)している5人(組)に登場していただきました。

良質な水で高品質なきくらげ

 

生きくらげ農家(那須高原ファーム)
下川明日香さん(38)=那須

 

 

大きくて肉厚、そのプルンとした歯応えは天ぷらやフライ、生のまま手切りにして刺し身としても楽しめる「生きくらげ」。 

「おいしいきくらげに育てるには、まず良質な水が必要不可欠。那須高原の大地と水で高品質の栃木県産きくらげを作りたい」と、きくらげ農家としてスタートしたのは1年前。  

湿度、温度、乾燥具合、水分調整、全てにおいてわがままなのがきくらげ栽培の苦労する部分。「まるで子育てと一緒。毎日毎日手をかけ、大切に育てています」。通常は夏のキノコとして6~9月頃まで生産・出荷されていますが、県内では唯一、きくらげを専門として通年栽培を行っているのも最大の特徴。   

また、栽培スタートに合わせて、日々の管理作業を行う栽培委託業務会社「那須高原ファーム」を夫の雅徳さんと立ち上げ、地元の方の協力を得ながら品質管理に努めています。現在はファームの秋元正和さんと人見正治さんと共に年間約14㌧を生産。  

きくらげにとって良い環境をそろえ、高品質にこだわるその栽培方法は、一枚一枚丁寧に手洗いし、必ず天日干し、きくらげの持つ栄養価を十分に引き出してから袋詰めします。時には、夜中まで出荷の準備作業が続くことも。「私たちが作ったきくらげが誰かに届くことを思うと大変さよりうれしい」と笑顔。100%那須町産の生きくらげをたくさんの方に食べてもらいたいが願いです。  

(問)下川さん☎090・3082・6043。

 

一人で耕し季節の野菜を

 

耕吉
杉村翼さん(36)=那須烏山

 

 

緑豊かな山並みを眺め、那珂川を見下ろす場所にある畑。さんさんと降り注ぐ真夏の太陽の日差しを浴びて、ナスやオクラ、キュウリなど、有機栽培する野菜が元気いっぱいに育っています。  

東京都府中市の出身。田舎暮らしをするため宮古島へ移住しました。その後、北海道・蘭越の野菜農家で広大な農業を経験し、「一人でできる農業」を決意。埼玉の有機農家での研修を経て、10年前に心ひかれたこの土地で新規就農しました。  

約1㌶の畑で年間60種類の野菜を無農薬・無化学肥料で栽培しています。肥料は平飼い養鶏の鶏ふんがメイン。自然の恵みが凝縮された野菜は宅配便(本年度は受け付け終了)のほか、不定期でベイシア烏山店で販売する時があります。  

「耕して、いいことがあるように」との思いを込めた屋号「耕吉」。農業は生活であり、天職だと思っています。大好きな農作業を楽しむことがこだわり。暖かい季節ははだしで仕事をするのが最高と言います。「四季に合わせて野菜を作っていた昔の〝お百姓さん〟みたいになりたい」  

(問)杉村さん・メールramugisu@hotmail.co.jp

 

水耕栽培で新鮮、安心、安全

 

サニーライン 取締役社長
佐藤慎悟さん(37)=宇都宮

 

 

駒澤大学在学中に箱根駅伝花の2区を走り、3度の優勝を経験。その後、日清食品などでフルマラソンランナーとして活躍した経歴を持ち引退後に選んだ道は、故郷栃木県での「食と体」をテーマにした水耕栽培でした。  

現役を引退した2013年、父が経営していた貨物自動車輸送会社「ホットライナー」を引き継ぎます。翌年には液肥の調整で、高機能野菜を作ることができる水耕栽培をやりたいと「サニーライン」を設立。さらに農業に福祉を統合させたいと「就労継続支援A型事業所 たすき」を設立し、野菜の収穫や袋詰めなどの作業を任せ、水耕栽培の「生産、収穫、運送」の流れを作り、県内のスーパーやハンバーガー店などに出荷しています。  

高校生の時から、「自分に合ったトレーニングは何か」を考え続け、編み出し、結果に結び付けていました。その思考が会社運営にも役立ち、無駄なく効率のいい流れができていると言います。  

「健康の源は食。衛生的な環境の中、減農薬で作られる水耕栽培野菜は新鮮で安心、安全です」

 

草を生かした自然な環境で

 

ともくさ農園
稲田健さん(43)貴子さん(44)=佐野

 

 

「自分が食べたい物を作って、それを食べたい人に届けることができれば、これ以上幸せなことはない」  

草を生かした自然な環境で、肥料は地元にある関塚農場の平飼い鶏ふんや自家製堆肥などを使用。種は昔ながらの固定種と自家採種を基本としています。旬の野菜約10種類をセットにして佐野、足利で契約する各家庭に宅配を行っています。   

子どもの頃に見た人気アニメ「美味しんぼ」がきっかけで食への強い関心を持つようになりました。大学卒業後は、食関連の仕事に就いていましたが、24歳で脱サラ。那須烏山市で有機農業者を育成する帰農志塾に入塾。ここで妻の貴子さんと出会い、3年半の研修を終えて2005年に貴子さんの実家がある佐野市秋山町で「草と共に生きる」という思いを込めたともくさ農園を開園。         

獣被害も深刻であったため牧町に転居。東日本大震災後は日本の伝統食である雑穀や発酵食品に力を入れています。  

(問)同農園☎080・2557・0079。
 

 

収穫体験などで地域と共に

 

ぬい農園
縫村啓子さん(32)啓美さん(32)=栃木

 

 

栃木市寺尾地区の自然豊かな中山間地の畑で、化学系の農薬や肥料を使わない農法で、年間約100種類の野菜を作っています。    

「幼少期に祖父の畑で遊んだ経験や田畑が広がる長野の村で育ったことがきっかけで農業や環境問題に関心を持った」と啓子さん。農業系の大学を卒業し、一般企業で2年勤めた後に就農を決意。研修を受け、祖父から引継いだ畑や休耕地を借りて2016年に「ぬい農園」をスタートしました。  

翌年、啓美さんと結婚、夫婦二人三脚、野菜を通して小さな循環を生み出す、地域に根付いた農園を目指します。肥料やたい肥は身近な資源を生かし、収穫した野菜は市内の飲食店や個人宅配、コエド市場、ろまんちっく村などで販売しています。   

「獣害や高齢化など問題はあるけれど、ユーモアを持ち、楽しく農業を続け、この地に人を呼び込む力を増やしたい」と啓美さん。イベント出店、収穫体験や味噌作りなど、交流活動も行っています。「野菜作りは大変だけど、やりがいや喜びが大きい。皆さんにも家庭菜園をお薦めしたいです」  

(問)ぬい農園https://nui-nouen.com