県内の伝統的手仕事の保全と伝承を目的に伝統工芸士や手仕事士が集まり、1974年に結成された下野手仕事会(藤田眞一会長)。月イチ企画「Tochigi 人びと」、今回は今年46年目を迎えた手仕事会の会員のうち活動歴の長い女性5人を紹介します。

 
 
一つ一つ、心と技を込めて

 

 
押絵 阿久津華重さん(77)=高根沢

 

出発点は、大谷光栄さんの代表的作品「彦根屏風」。それまで烏山和紙の押し絵を学んでいましたが、ちりめんなどの白生地を手染め・手描きする布の押し絵に感銘し、その作品を目標にしてきました。  

1年かけて制作した「彦根屏風」が1993年、日本手工芸美術展名誉会長賞を受賞。そして今も「大谷先生のことを一生かけて追いかけています」と話します。

農家の嫁として夫と農業をしつつ、夜中に制作を続ける日々。17年間学んだ江戸友禅染をはじめ日本画、創作人形、カルトナージュ、トールペイントなど、全ては押し絵に生かすためいろいろな稽古を積み重ねてきました。「作品に向き合っている時間は幸せ。農業をやめた今は、朝から晩まで専念できる」と笑顔。

現在は数カ所の教室で指導。4年前からはさくら市の「氏家雛(ひな)めぐり」に参加し、まちかど館で押し絵やちりめん細工などの作品を通して来場者との交流を深めています。「昨日より今日、今日より明日」。いつも心にあるのは、成長していたいという思いです。

 (問)阿久津さん☎028・675・3947。

 

とちぎに生きる柄、手まり

 

 
野州てんまり 赤池民子さん(83)=宇都宮


女児の玩具として親しまれていた色鮮やかな手まりは、その美しさから現在では伝統工芸品として全国で作られています。その中で、「野州てんまり」は赤池さんの師匠中山春枝さんが県内ゆかりの柄で創作したもの。繭を覆う毛羽という絹綿を巻き付けて球体にしているので、手触りはほどよい柔らかさ。表面には色糸で県内の自然を美しい幾何学模様にして描かれています。  

夫を早くに亡くした赤池さんは神奈川県の逗子から故郷栃木県に。宇都宮市内の保育園調理師として定年まで約20年間働き、3人の娘を育てました。退職後に百貨店で開催していた「野州てんまり」実演を見て、あまりの美しさにすぐにその時の指導者中山さんのもとに習いに行きました。それから23年間、「手まりを作るのは生活の一部」というほどに毎日手まりを作り続けています。  

現在は県の伝統工芸士の認定を受け、師匠の中山さんの教室「宇都宮てまり舎」を引き継ぎ、第1、第3木曜の月2回指導をしています。手まりは県立博物館や県立美術館、JR宇都宮駅構内とちびよりなどで購入できます。  

(問)赤池さん☎028・659・2081。

 

「編み方に特徴」技広げる

 

 
マクラメ編み 卯野サチ子さん(68)=さくら


「マクラメ」はアラビア語で、ウエディングドレスのベールの裾を「手で結ぶ」ことから始まった世界共通の編み方の一種。たて糸のみで結ぶのが特徴で、鉢カバーやタペストリー、小物やバッグまで幅広い作品に仕上がります。  

マクラメ編みを知ったのは26年前。偶然耳に入ってきたその言葉から、本だけを頼りに結び方を学びました。「もっとたくさんの人にマクラメの魅力を知ってほしい」。いくつもの作品を手掛ける傍ら、カルチャースクールや教室を持ち、楽しさを伝えています。  下野手仕事会の一員になれたことも大きなきっかけに。「周りの会員さんからもらう刺激が作品を生み出す力になり、もっと頑張ろうという気持ちになる」と、笑顔。  

3年前には新たなつながりも。「日本マクラメ普及協会」があることを知り、現在も月に一度、東京に通い認定講師取得に向け、その手技を学んでいます。同じ志を持って、広く伝えようとする仲間たちとの出会いが手仕事を続けていく大切な思いとなっています。「まずは目にしてもらいたい。そこから『やってみたい』と思ってくれたら最高に幸せですね」  

(問)卯野さん☎090・8032・0746。

 

思い込め… 描き、染める

 

 
筒描藍染 若菜萠さん(63)(68)=益子


美しい藍と色彩のタペストリーやのれん。餅粉とぬかを蒸した防染のりを柿渋を塗った円すい形のあの筒に入れ、手で絞り出しながら模様を布に描いて藍染めします。  

大好きな絵を仕事にしたいとずっと思っていました。実践女子大学国文科を卒業。都内でデッサンを学び、東京手描友禅の仕事を経験。益子町の日下田藍染工房で修業し、30年前に独立しました。  

足を運び、文献を読み、できる限りの体験から生まれる作品。中でも極めて高い技術を要する茶屋染で「難しいものにチャレンジしたい」と制作した「合掌の里茶屋染屏風」が、1995年の国民文化祭で文部大臣奨励賞を受賞。   

「この技術を次に」と思いを託すのは、7年前から修業を始めた娘の野乃花さん(29)。自身の具象デザインと野乃花さんの抽象デザイン、染めと織りのコラボなど親子合作も魅力。「これからはお客さんと一緒に作りあげていくオーダーの作品に取り組んでいきたい」と話します。  

作品や展示会などの詳しい情報は「アトリエ草冠」のホームページで発信しています。  

(問)アトリエ草冠https://kusakanmuri.jimdo.com

 

〝端材〟に命 干支人形作り

 

 
きびがら工房 増形早苗さん(43)=鹿沼

 

3代続く鹿沼箒(ほうき)の職人。ほうき作りで出る端材で干支(えと)のきびがら人形を考案したのは、祖父で2代目の故青木行雄さん。技を引き継いで14年になります。

下野手仕事会への入会は6年前で会員の中で最年少でした。「まだまだ力が足りないと感じていたので大変なプレッシャーがありましたが、皆さんから大変温かく迎えていただきました。技のことだけでなく手仕事で生きていくための貴重なアドバイスをいただくこともあります」

同会主催のイベントはお客と直接会って話をすることができる大切な機会。干支の人形を集めるのを楽しみに毎年買いに来てくれるお客がいます。娘に似ているなどと子どもや親しい人の顔に人形を重ね合わせる人がいたり、この人形を買った年に息子が結婚したと家族の思い出に結びつけている人がいたり。   

「かわいい」と言って喜んでくれたお客のことを思い出すと「頑張って続けていきたい」という気持ちがわき上がってくると笑顔を見せます。  

(問)きびがら工房☎0289・64・7572。