
1950年鹿沼市生まれ。2004年に、高瀬家父子相伝の一筆龍を三代目龍正の画号で受け継ぐ。
日光市の日光東照宮ではことし、徳川家康公の400年回忌の大切な節目の年を迎えて、5月には50年に一度の式年大祭が開催されました。先月からは家康公の墓参りともいえる日光社参が行われるなど、一年を通じて祭儀や行事、記念イベントで盛り上がる同市で、観光目的の一つになっている日光一筆龍。その技術を受け継ぐ「日光一筆龍高瀬」3代目の高瀬文子さん(65)に、一筆龍の由来や作品に込める思いなどをお聞きしました。
願い込め●一筆龍について教えてください。
顔は小筆で描き、胴体を一筆で一気に描くため、一筆龍と呼ばれています。
日光東照宮前、表参道での実演販売が始まりで、昭和29(1954)年から続いています。父の初代龍祥から、父子相伝で継承され、私は3代目になります。
初代は、お祭りなどの縁日で龍画を描いていた中国人の先生から指導を受けました。後に、東照宮の龍画のような色を出せないかと工夫を重ね、墨と絵の具を混ぜて描く技法で、鮮やかで躍動感あるオリジナルの一筆龍を完成させました。

集中に徹して胴体を一気に描き上げる、三代目龍正さん。緊張感が伝わってきます

●魅力はどんなところにありますか。
龍は縁起物ということから、お客さまは家門繁栄などの開運や「頑張るきっかけ」に購入して行かれます。「飾ってから良いことがありました」とご報告のお手紙などをいただくこともあります。
昇り龍の他に、地上に降りて足を地に付けた姿を描いた、事始めの龍を表す臥龍(がりゅう)や夫婦龍を描いた双龍など、龍画は目的やスペースに合わせて選ぶことができます。お札ではないので、ずっと飾っておける一生ものです。
中央に描かれている宝珠の玉は、月と太陽を表しています。お客さまそれぞれの願いを込めて描いています。一枚一枚手描きなので同じものはありません。
●受け継ぐきっかけは。また、ご苦労などはありましたか。
兄が2代目龍昇として受け継いでいましたが、病気で亡くなったため、私が3代目龍正となり継承しました。本格的に描き始めてから10年になります。
受け継ぐつもりはなかったのですが、子どものころから露店で手伝いをしていたので、一筆龍の基本は教えられていました。継承してからは日々勉強で、父が考えたオリジナルの一筆龍を受け継ぎたい一心です。自分で満足していないので、ああでもない、こうでもないと、終わりがありません。
描く時は、龍のバランスしか考えていません。それしか考えられないスイッチが入ります。

●作品制作で大切にしていることは。
「大きく大きく、ゆっくり描け。自分の絵にするように」。父と兄の言葉です。特別はなく、同じ気持ちで描いています。自分の心、魂を入れて集中して描くのでとても疲れます。描く私の姿を見たお客さまが涙を流したこともあります。
「心はいつも丸くしていなくちゃ」と明るくしています。
●今後の抱負や読者へのメッセージをお願いします。
歴史を感じる父と兄が残したものを、代々継承していきたいです。指導者として、後継者を予定している息子には、見て覚えてもらうしかないと思っています。感性・感覚が違うため、色の組み合わせ方など刺激にもなっています。時々まねをすることもあります。
一筆龍は「ここに来ないと買えない」ものなので、観光目的の一つになって、日光が潤ってくれればと思います。描く姿を見て、感じて、自分に合った龍画を見つけていただければと思います。