県内クラフトビール巡り
大麦産地に芽吹く
醸造文化
 
黄金色に色づく大麦畑が、ビールの季節の到来を告げています。本県はビール原料の大麦産地として知られる一方、県内クラフトビール業界も近年、活気を帯びてきました。昨秋には県内11社による「栃木クラフトビール協同組合」が発足し、地域に根差した産業の広がりが期待される中、県内の醸造所を巡りました。
泡立つ一杯
際立つ個性
清らかな水と豊かな風土に恵まれた栃木県では、個性あふれるクラフトビールが次々と誕生しています。地元産の素材や醸造家の哲学が溶け込んだ一杯は、飲むほどに土地の物語を語りかけています。観光の合間や日常の晩酌にも寄り添う多彩な味わいが、県内外のファンを惹きつけています。
宇都宮
ろまんちっく村ブルワリー
栃木の物語、ビールに込める
ビールは隣接するレストラン「麦の楽園」でも飲める。麦太郎700円(グラス)
ビールは隣接するレストラン「麦の楽園」でも飲める。麦太郎700円(グラス)
ろまんちっく村ブルワリーは、栃木県産の大麦を使い、ビールを通して地域の農業や魅力を発信したいという思いから、1996年に創業しました。
定番の「麦太郎」や、宇都宮名物のギョーザに合う味わいが特徴の「餃子浪漫」(瓶各580円)など、地域性を大切にした商品がそろい、園内の売店には常時10種類以上のビールが並びます。季節限定や一度きりのビールも多く、訪れるたびに新しい味に出合えるのも魅力。近年はパンの耳やワインの搾りかすなどを使った環境や社会に配慮したビール作りにも取り組んでいます。
山下創所長(55)は、家族連れや観光客にも気軽にクラフトビールを楽しんでほしいと、県内各地のイベントにも積極的に参加しています。「栃木に来たらクラフトビールも楽しもう」と思ってもらえるよう、地域とともに歩むビール文化づくりを続けています。
園内の「あおぞら館」に並ぶビール
園内の「あおぞら館」に並ぶビール
宇都宮市新里町丙254
☎028・665・8800
那須塩原
NASU BOULDER BREWING
ロハスな地域を目指し開業
ホップが効いた香りと苦味が味わえるIPA(生・Mサイズ800円)
ホップが効いた香りと苦味が味わえるIPA(生・Mサイズ800円)
人気観光スポット・那須ガーデンアウトレット内にあるクラフトビール醸造所。ロッキー山脈の麓、「LOHAS(ロハス)」発祥の地とされる米国・ボルダーにならい、環境に優しく健康的な暮らしを目指す那須ボルダー計画の一環として、クラフトビールを通じて地域活性化を目指し2021年にスタートしました。
ブランド名は「NASUdeSUNA(なすですな)」。定番ビールはペールエール、IPA(インディアペールエール)、ヴァイツェン、レモンビールの4種類。ほかに千本松牧場とコラボした「ホエイプロテインビール」など限定ビールを合わせて常時10種類ほどをラインナップ。
川上敏洋製造長(41)は「万人受けする飲みやすいビール造りを心掛けている」と話します。発売開始からビールの品評会にも積極的に出品し受賞を重ねています。併設するショップでは出来立ての生ビールも味わえます。
常時10種類のクラフトビールが楽しめる
常時10種類のクラフトビールが楽しめる
那須塩原市塩野崎184–7 那須ガーデンアウトレット内
☎0287・73・8588
定休日、営業時間は同アウトレットに準ずる
足利
ISHII BREWING
欧米で技術学び、地元で醸造
ホップの香りと味わい深い苦味が楽しめるIPA
ホップの香りと味わい深い苦味が楽しめるIPA
アメリカ、イギリスでクラフトビールの醸造を学び、醸造家として国内外で活躍する市出身の石井敏之さんが、2022年に開設した足利初のクラフトビール醸造所。
定番のクラフトビールはペールエールとIPAの2種類(各700円)。ブランド名は地元で縁結びの神様として親しまれる「足利織姫神社」と愛猫の名前「姫」にちなんだ「ORIHIME」。
石井さんが依頼して市内で始めたホップ栽培も3年目を迎え、今年の秋には収穫したての生ホップを使った「ウエットホップビール」の限定販売も予定しています。「足利はビールの原料に恵まれ、水もいい」という石井さん。ブランド野菜「あしかが美人」のイチゴやトマトを使ったビール造りにも取り組んでみたいと話します。
定番商品のIPAとペールエール、限定商品French Saison(写真左から)
定番商品のIPAとペールエール、限定商品French Saison(写真左から)
足利市問屋町1177–10
☎050・1292・4050
午後1~5時(イベント出店などで不在あり。事前予約は電話またはメールで受付)
yukiko@ishiibrew.com
日曜定休
栃木
油伝麦酒
個性生かして、隠し味にみそ
「蔵の街ラガー」グラス中700円とよく合う、田楽盛合せ700円
「蔵の街ラガー」グラス中700円とよく合う、田楽盛合せ700円
1781年に油屋として創業し、江戸末期から続くみそ造りを今も守り続けている油伝。その老舗が2022年、「みそとは異なる新しい価値」として挑戦したのが、栃木市初のクラフトビールです。
ビールにほんの少しだけみそを隠し味として使い、蔵のアイデンティティをさりげなく表現しています。また、原料には栃木市産の大麦など、地元の食材を積極的に取り入れ、地産地消を大切にしています。
定番商品は、すっきりと飲みやすい「蔵の街ラガー」と、バランスの取れた味わいの「カエモンエール」(缶各660円)。お土産として人気なのが、栃木市新波地区の有機栽培米「NIPPA米」を使った「NIPPAIPA」(缶880円)です。そばや果物などを使った限定ビールも数多く手がけ、クラフトビールならではの自由で多彩な世界を広げています。
主屋を含む5棟が国の登録有形文化財に指定されている
主屋を含む5棟が国の登録有形文化財に指定されている
栃木市嘉右衛門町5–27
☎0282・22・3251
販売…午前10~午後4時(土日祝は5時) 食事…午前11~午後3時半(土日祝は4時半)
火・水曜定休(祝日は営業)
鹿沼
トリイ堂醸造
街づくりから生まれた一杯
トロピカルで柑橘系の香りが特徴の「THE HAWK 〝解〟」パイント1320円
トロピカルで柑橘系の香りが特徴の「THE HAWK 〝解〟」パイント1320円
鹿沼に1月に誕生した「トリイ堂醸造」は、地域とのつながりを大切にしたクラフトビール醸造所です。
ブルワーの有馬明日香さん(32)は東京出身。行政系の仕事を通じて鹿沼の街づくりに関わったことをきっかけに、この地で「自分が楽しいと思える場所を作りたい」とこの仕事につきました。クラフトビールは人と人を自然につなぐ存在であり、誰が作っているかが見える手触り感も魅力だといいます。
醸造は、もう一人のブルワー若林勇太さん(40)とそれぞれの個性を生かし、対等な立場で担当しています。自由な発想から生まれる独創的なビールが特徴で、地元グルメのシウマイに合うビールは人気を集めています。今後は鹿沼市の前日光醸造所とのコラボなど挑戦的な仕込みも行っていく予定です。店舗は駅から近く、料理も充実しており、日常使いしやすいのも魅力。鹿沼の新たな楽しみ方を提案する一軒です。
レトロモダンなかわいらしいデザインの内装
レトロモダンなかわいらしいデザインの内装
鹿沼市鳥居跡町1416–14 鳥居跡ビルヂング1F
☎0289・78・5180
午後5時~10時(LO9時半)
営業日はInstagramで確認
栃木クラフトビール協同組合
加盟会社・ブルワリー一覧
栃木マイクロブルワリー/宇都宮市
宇都宮ブルワリー「BLUE MAGIC」/宇都宮市
ファーマーズ・フォレスト「ろまんちっく村ブルワリー」/宇都宮市
うしとら「うしとらブルワリー」/下野市
三本松茶屋「Nikko Brewing」/日光市
THE KICHI 日光市
Sunフーズ「808ブルワリー」/小山市
那須高原ビール/那須町
ISHII BREWING/足利市
油伝味噌「油伝麦酒」/栃木市
那須ボルダー計画「NASUdeSUNA」/那須塩原市
ビール麦の父
田村律之助
今から100年以上前、明治時代後期にビール会社との契約栽培にいち早く取り組み、本県を全国でも有数のビール麦(二条大麦)の生産地にしたのが農学者の田村律之助です。
田村は現在の栃木市大平町西水代に生まれました。東京農林学校(現・東京大農学部)で農業を学び、卒業後は農業指導に尽力するとともに、JAしもつけの源流となる下野農会を結成しました。また、水代村の村長も務めています。
本県におけるビール麦栽培の基礎を築いた「ビール麦の父」を郷土の偉人として広く発信しようと、2017年には田村が学んだ「知新館」を前身とする太平南小の関係者らを中心に、市民有志による「田村律之助顕彰会」が設立されました。
同会は、親子麦踏み体験や麦刈り体験、ビールイベントなどを開催。醸造プロジェクトにも取り組み、太平南小近くの畑で地元の子どもたちが栽培したビール麦を使用し、ファーマーズ・フォレスト(宇都宮市)と共同でオリジナルクラフトビール「律之助物語」を完成させました。25年の大阪・関西万博では新たに再建した田村の立像を展示するとともに「麦どころとちぎ」を国内外にPRするなど積極的な活動を続けています。