ミリ単位、巨大インフラ支える線路保線作業 ユニオン建設宇都宮出張所 工事長 人知れず誰かの役に

夜に見つめる 第1部「暮らしのそばで」①

11:30

 午前2時。「マルタイ」と呼ばれる高さ4メートルの大型の保線用機械がレールの上をゆっくりと走っていく。「ガシャン、ガシャン」という音が冷たい空気に響き渡る。

 

 

 霧がかかった寒空の下でじっと見つめるのは、JR東日本のグループ会社ユニオン建設宇都宮出張所の工事長斎藤譲治(さいとうじょうじ)さん(38)。昨年11月下旬、水戸市内のJR常磐線下り赤塚-水戸駅間の約200メートル。春の梅で知られる日本三名園の一つ「偕楽園」の近くで、ミリ単位でレールのゆがみを補修する繊細な作業が繰り広げられていた。

 マルタイが通った線路を懐中電灯で照らす。ゆがみが直っているか、高さが整っているか。はうように顔を近づけレールの行き先を見る。わずかな異変の見逃しが、鉄道という巨大インフラを狂わせるトラブルにつながりかねない。

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 作業員約10人の集合は午後11時半過ぎ。「ヘルメット」「よし!」。近隣住民に迷惑を掛けないよう声の大きさは控えめに。斎藤さんが点呼をとり、作業に取りかかる。5時間後には電車の運行が始まる。作業の遅れ、ミスは許されない。

 

社会が寝静まった夜中の作業が交通インフラを支える=2025年11月26日午前2時30分、水戸市、磯真奈美撮影
社会が寝静まった夜中の作業が交通インフラを支える=2025年11月26日午前2時30分、水戸市、磯真奈美撮影

 

 レールの状態は電車の走行によって日々、微小に変化していく。「ゆがみは安全性だけでなく、乗り心地にも影響します」。他の作業員が線路を持ち上げる高さなどの数値を決めたり、砂利を突き固める機械を操作したりした後、斎藤さんが仕上がりを確かめる。

 「原点」は、宇都宮市陽南中2年のとき、職業体験で市内の建設会社を訪れたことだった。間近で橋を造る迫力に「すごいな」と目を丸くした。生活に身近な道路や橋などを造ったり整備したりすることに興味が湧いた。

 

「縁の下の力持ちになれる仕事を誇りに思う」と話す斎藤さん=2025年11月26日午前2時40分
「縁の下の力持ちになれる仕事を誇りに思う」と話す斎藤さん=2025年11月26日午前2時40分

 

 宇都宮工業高に進み、土木を学んだ。3年生になり求人票を眺めていると、同じ土木科で、サッカー部の先輩が勤務するユニオン建設を見つけた。

 職場見学で担当者が言った。「夜間の作業なので表立ってはいないけれど、縁の下の力持ちになれる仕事」。目立たないところで人知れず誰かの役に立つ-。「悪くないな」と思った。2006年4月に入社し、もうすぐ20年。現在は週3日ほど夜勤に入る。

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 宇都宮出張所は宇都宮線小山-宝積寺駅間、日光線と水戸線の全線、常磐線の友部-水戸駅間でマルタイによる保守を受け持つ。
 

線路のゆがみが直っているかを確認する斎藤さん=2025年11月26日午前3時5分
線路のゆがみが直っているかを確認する斎藤さん=2025年11月26日午前3時5分

 

 常磐線や日光線は終電から始発までの時間が長いため、作業時間を4~5時間程度確保できるが、宇都宮線などの主要路線は1時間半から2時間程度に限られる。

 作業中は常に時間とのにらめっこだ。「夜寝ている時に、マルタイを脱線させて失敗する夢は見ますね」と笑うのは、緊張感が張り詰めた業務であることの裏返しでもある。

 夜勤の日は、昼間現場に赴いて線路を点検し、機械のデータなどを事前に確認する。午後5時から休憩に入り夜間の工事に備える。

 29歳で結婚し、8歳の長女と4歳の長男の父親でもある。現場が近ければ休憩時間に宇都宮市内の自宅へ帰る。

 子どもを風呂に入れ、家族で晩ご飯を食べる。日勤と夜勤が入り交じり、カレンダー通りには休めない仕事。「少しでも一緒に過ごせる時間を大切にしたくて」。食器を洗って、1~2時間ほど仮眠を取る。眠りに就いた子どもたちを起こさないようそっと家を出て現場へ向かう。

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 働き方改革の推進や人手不足で保線作業も機械化が進む。それでも最後は斎藤さんら人の目が責任を持つ。社会が寝静まった夜中の業務。何千何万の人々の通勤・通学の足となる仕組みを、現場の作業員一人一人がひそかに支えているのを実感できる。高校生の時に感じた思いがここにある。

 時には音や振動への意見が寄せられることもある。一方で、普段見かけることのないマルタイに興味を持って写真を撮りに来る近隣住民を見かけると、うれしく思う。「自分が扱っている大型機械を通して、保線作業を多くの人に知ってもらう機会にできたらと思います」と話す。

 

線路のゆがみを直す大型機械「マルタイ」の操縦席=2025年11月26日午前3時25分
線路のゆがみを直す大型機械「マルタイ」の操縦席=2025年11月26日午前3時25分

 

 作業を終え、最後の点呼をして解散した時には午前4時を回っていた。「乗り心地の良い線路にするために夜な夜な働いている人がいるって、言われないと分からないし特殊ですよね」。白い息を吐いて笑った。「そんな仕事が誇らしくて、好きなんです」