
秋のページをめくると、「読書週間」が今月末に控えています。読書に「すべき期間」があるわけではありませんが、いい季節です。
今回は本の宝庫、図書館や文庫をご紹介します。たくさんの本と出合い、ふれ合える場所です。
本は返却しても、「こころとあたま」にたくさんの希望や夢、知識や生き方が残ります。それはまるで「本と生きる」よう…。
那須塩原市図書館「みるる」
広い空間で自由な読書

まるで森の中にいるような館内を歩くと、行く先々にスタイリッシュで居心地のよい空間が広がります。1階は、黒磯駅から街へとつながる大通り「みるるアベニュー」が通り抜け、放射状の巨大な本棚と、本から抜き出した「言葉の彫刻」に心が躍ります。
同館ならではのこだわりについて、館長の物井友和さんは「20カ所以上の特集コーナーを配架し、本との出合いを演出しています。レイアウトも、独自の細かいルールによって整理整頓をしているんです」と話します。そうした〝みるるの美意識〟が、いつの間にか本に手が伸びるような空気感をつくりだしていると言います。
今年9月に開館5周年を迎え、来館者数は年々増加。昨年度は約40万人が来館しました。学びや新たな交流が生まれる那須塩原のランドマークとして、幅広い世代が本とのふれ合いや多彩なイベントを楽しんでいます。
☎0287・63・9031
開館時間/午前10時~午後9時(土・日曜、祝日は同6時まで)
休館日/月曜(祝日は開館し、翌平日休)
P隣接のスーパーとの共用駐車場、市営黒磯駅西口駐車場(有料)

アトリエ森野 宇都宮
本でつながる人と地域

木に「ひとはこ図書」が芽吹き、いつか森になるように。そんな思いを込めて美術教室を主宰する柄澤博子さんが、4年前にアトリエ内に開いた小さなシェア型図書館「森の図書館」です。大谷豆腐店と共有するアットホームな空間で、今は閲覧のみですが、6人のオーナーのひとはこ図書を楽しめます。
かつて柄澤さんが古本屋を営業していた時に一箱本棚のオーナー制を知り、発案・スタートさせた静岡県焼津市の「みんなの図書館さんかく」に足を運んだそうです。「本屋というよりも場づくりに意味を持たせたかった。人と地域が本でつながり広がっていけたら」と話します。
開館時間/木~日曜正午~午後5時

まーしこ・むーしか文庫 益子
文庫の楽しさと温もり

児童文学作家のいぬいとみこさんが東京・練馬区で開いていた家庭文庫「ムーシカ文庫」を受け継ぎ、29年目を迎えた「まーしこ・むーしか文庫」の石川綾子さん(65)。緑に包まれる益子の静かな場所で、子どもたちにふれ親しんでほしい約4000冊の絵本や物語の世界を伝えています。
石川さんは世田谷区で暮らしていた小学生当時、親友と通っていた家庭文庫で児童文学者の松岡享子さんらの素語りを聞いて育ちました。
「子どもにとって読んでもらったり、お話を聞いたりするのが一番」と言う石川さん。「私は教えるということはしない。本が持っている力を信じているの。それは本を読んだ子どもたちが受け取るものだから」
☎0285・72・8433
開館/第1・3土曜午後1〜5時。Pあり

もみじ図書館 宇都宮
地域住民の憩いの場に

東武宇都宮駅の南西、「もみじ通り」にある不動産・建築設計事務所「ビルススタジオ」が、築50年の木造アパートを改装して2019年に開いた民営図書館「もみじ図書館」。
絵本や紙芝居など子ども向けのものから歴史、文学、建築、美術など地域の人から寄贈された約7、8千冊の蔵書がそろいます。本棚で空間が区切られていて、その一つ一つにイスとテーブルが置かれているので、人の目を気にせず本に没頭することができます。夕方になると勉強をしに訪れる中学生や高校生も多いそう。
本の貸し出しは行っていませんが、無料で施設を利用することができて飲食の持ち込みも可。同スタジオ設計企画部の高橋碧さん(26)は、「カフェのように利用することもできて、普通の図書館とはちょっと違う自由な使い方ができる場所です」と話します。
Pなし。

茂木町まちなか文化交流館 ふみの森もてぎ
興味に寄り添う分類法

木が描く美しい曲線の連なり。町有林の木材を活用したシンボリックな建築が図書館を温かく包み込みます。町の中心市街地にあり、文化を通じて人々が交流を深め、親しまれている同館。約9万冊の蔵書をそろえ、年間約10万人が利用しています。
その大きな特長が、県内唯一の独自分類法です。十進分類法による学術的な分類ではなく「A ともに生きる」「B すぐに役立つ」といった分類法で本を書架に並べています。町生涯学習課課長補佐兼係長の斎藤哲郎さんは「来館者の関心や興味に寄り添うような魅力ある書棚づくりをしています」。
また、県内外誰でも利用できるのも魅力です。歴史資料展示室や交流広場、この地にあった酒造蔵元の蔵を再活用したギャラリー、カフェもあり、さまざまな楽しみが広がります。
☎0285・64・1023
開館時間/午前9時~午後7時(土・日曜、祝日は午後6時まで)
休館日/月曜(祝日は開館し、翌平日休)。Pあり。

栃木市図書館移動図書館
本との出合い、楽しみ運ぶ

約3000冊の本を載せて栃木市内のステーションを巡回する移動図書館「ブックシャトル・あじさい」。誰もが読書を楽しめるようにと、1986年に巡回をスタートしました。現在運行中のあじさい号は2代目で、土・日曜と祝日、休館日を除く平日に団地や公民館、小中学校などを巡っています。
9月18日、あじさい号が向かったのは藤岡町の部屋小学校。地元の藤岡図書館からも小学生向けに児童書など約60冊の本が〝合流〟しました。昼休みを利用して児童たちはお目当ての本や気になる本を手にし、目を輝かせていました。
入学以来、図書室の本を1000冊以上読んでいるという6年生の大槗桜太郎さん(11)は、登場人物の掛け合いが楽しみという「探偵はもう、死んでいる」など3冊を借り、「学校にない本もある。ブックシャトルが来る日が待ち遠しい」と笑顔を見せました。

おすすめ本棚
■那須塩原市図書館みるる・館長 物井友和さん
「爆弾」(呉勝浩著)
この物語は、取調室という狭い一室の中で進んでいきます。スズキタゴサクという、さえないがえたいの知れない不気味な容疑者と頭脳明せきで同僚から浮いた存在の取調官の類家(るいけ)。この二人のスリリングな心理戦や駆け引きに引き込まれます。映画化の予定もあり10月31日公開です。
■もみじ図書館 株式会社ビルススタジオ 設計企画部高橋碧さん
「TOKYO STYLE」(都築響一)
作家、編集者、写真家として活動する都築響一が1993年に刊行した写真集。平成初期の東京で生活していた人の部屋を淡々と紹介しています。整頓されていないありのままの生活を垣間見ることができます。懐かしく感じる人もいれば新しい発見をする人もいるかと思います。ぼーっと見ていられる一冊です。
■まーしこ・むーしか文庫 石川綾子さん
「大きな森の小さな家」(ローラ・インガルス・ワイルダー著)
「大草原の小さな家」の前作。120年前のアメリカの開拓民の家族の話です。生活することとはどういうことなのかを考えさせられる一冊。自分が心穏やかになりたいときに読んでいます。そして、物語の中に出てくるごはんの内容がおいしそう!
■アトリエ森野・オーナー 柄澤博子さん
「かなしみの秘技」(若松英輔著)
本が好きで言葉が好きな人も、本を手に取れなくなるときがあると思います。やり場のない思いを抱えて立ちすくむとき、そっと寄り添ってくれるそんな本です。
■栃木市藤岡図書館・館長代理 田中由起子さん
「ゆるゆる珍獣大図鑑」(Gakken)
見開きで動物を紹介しています。どんな特徴があるのか、かわいいお話とイラストで、くすっと笑えるような内容になっていて、4コマ漫画でも楽しく紹介しています。いろいろなシリーズがあり、動物に興味を持ってもらえたり、知ってもらえるきっかけになると思います。
■茂木町まちなか文化交流館 ふみの森もてぎ
「光村ライブラリー 小学生編全18巻・中学生編全5巻」(光村図書出版)
「もう一度、教科書に載っていたあのお話を読みたい」。昭和から平成の国語教科書の物語から厳選したアンソロジー。主人公の気持ちになって、うれしくなったり、悲しくなったり、懐かしいだけでない、名作の力を感じるたくさんの物語を、今の子どもたちも、昔、子どもだった人も一緒に読んでみませんか。