
「秋の夜長」だからというわけではありません。でもそんな言葉が聞こえてくるこの時季ですから、日々の中、「読書」に時間を割いてみましょうか。
2週にわたって本と読書と暮らしの〝ストーリー〟をつづります。まずは、選書にこだわりのある書店・古書店をご紹介します。
お気に入りの本と出合って、〝所有する〟というより、「本と暮らす」のはいかがですか?
igno...book plus (宇都宮)

小路の奥に心地良い世界
読書家もそうでなくても、心地良く本と向き合えるような空間。店主の山田直由さん(55)が店を開くに当たり、水と緑がある場所を選んだという釜川沿いの袋小路に隠れ家のような古書店はあります。
築80年ほどの古民家を改装した店内にアート系や写真、自然科学系、英米文学などの本が並んでいます。5年前のオープン当時は山田さんの蔵書でスタートしましたが、現在の冊数は山田さんも分からないほど。
デジタルの時代。リアルな本の魅力について山田さんは「デジタルを否定するつもりもないけれど、紙の質量や匂い、所有する欲望もある。散々読んでボロボロになってしまったものへのいとおしさもありますよね」
古書店にプラスして本や音楽の企画、作品展なども不定期で開催しています。

Book shop tsukahara (小山)

幅広いジャンルそろう
JR小山駅から市役所へ向かう、祇園城通り沿いにある古書店。ヨーロッパの小さな町にある本屋さんのような外観。窓に貼られたカレンダーには、水、木曜は農作業のため休みとあり、どことなく宮沢賢治のよう。
店主の塚原隆司さん(37)は茨城県古河市出身。3年前に脱サラし、店をオープン。絵本や美術系の古本を中心に文芸書や新書、写真集、装丁の美しいほるぷ出版の名著復刻シリーズなども並び、幅広いジャンルを取り扱っています。
「紙媒体は紙の手触りやにおい、インクの色など細かなことから全体の構成まで、五感に訴えかけるものが多い」と塚原さん。
夕食後のちょっとのんびりした時間に行く夜の本屋さんが好きだったと話し、店は週4日ほど午後9時まで営業している。

Hy.per_CHOCOLATE_books (佐野)

感性生かした選書光る
佐野駅南西、東石スカイテラスや老舗の楽器店などが並ぶ殿町通り沿い。シンプルで目立たない店構えですが、通りからもガラス戸越しに店内が見え、壁際の棚に写真集やアートブックが並んでいるのが分かります。
オーナーは地元出身のファッションデザイナーの尾崎俊介さん(42)。主にファッション、フォト、絵画、アート、デザイン、建築などでピンとくるものがあったら仕入れているそう。カフェも併設していて、棚に並ぶ本を自由に読みながらコーヒーを楽しむことができます。
「もともと本に興味がなくても、店に来たことがきっかけで本を手に取って、それがふと何かの気付きになったら面白いなと思って」と尾崎さん。「作家によって、本の形態もさまざまで、紙の質感や大きさ、デザインでいろいろ実験的なことをする人も。そこが良さかな」

BOOK FOREST 森百貨店 (芳賀)

〝絵本の森〟で出合いを
店のシンボルとして親しまれているのが、天井まで延びる絵本棚「ブックツリー」。店内には赤ちゃんから大人までお薦めの絵本約3500冊が並びます。大正15年創業、町内唯一の書店・文具店の森百貨店が13年前に絵本屋BOOK FORESTとしてリニューアルオープンしました。
オーナーの森敦さん(50)、多佳子さん(47)夫妻がセレクトする絵本は一冊一冊が個性を放ち、大人であっても心躍るもの。「自分の手で、自分のペースでページをめくれるのが読書の良さ。特に絵本は、文字の入れ方にこだわりがあり〝言葉の余白〟が想像力をかき立てる」と敦さんと多佳子さんは話します。
小学校の読み聞かせボランティアとしても絵本の楽しさを伝える多佳子さん。「絵本は生活の一部ですね」と笑顔を輝かせます。

☎028・677・0017
営業時間/午前9時~午後7時(土曜は午前10時~午後6時)
定休日/日曜、祝日。
P30台
bullock books (矢板)

店の個性も変化し続け
自然豊かな里山の風景を眺めながら、分岐を細い林道へ入り、しばらく上っていくと民家の奥に静かにたたずむ小さな小屋が現れます。
7年前、内田有香さんが、実家の離れに建つ小さなログハウスを自ら改装して開いた古書店。物語を読むことを通して関心が広がっていく歴史や神話、科学など、さまざまなジャンルの本をセレクト。内田さんが「これはぜひに」と思う個人出版の本なども並びます。「変化し続けていきたいので、店のコンセプトは決めていません。訪れた人が自分にとってどんな店か決めてほしい」。
手に取った時によみがえってくる感覚があるのは、物があってこそ。「紙としての本の良さもそこにあるのでは」と内田さんは話します。店舗情報など詳細はインスタグラムで。

絵本・児童書専門店 たね書房 (益子)

大切な一冊を見つけて
3年前、益子陶芸村内に開店。絵本、児童文学、一般書などおよそ1500冊の新刊本がそろいます。
店主の田中裕香里さん(40)は、元書店員で児童書を担当していましたが、「子育てを通してロングセラーの絵本の良さを初めて実感した」と言います。「知識がないと大切な一冊にたどり着くのが難しい。長く読み継がれる絵本の魅力をここで地道に訴え続けていきたい」と笑顔。
また本には文字で情報を受け取るだけではない良さがあると話します。「どういう紙がふさわしいか字体や表紙のデザイン、大きさまで執筆者だけでなくいろいろな人が関わって一冊の本になっています。毎日読むわけじゃなくてもそこにあるだけで安心できるような力を持っていると思います」。営業時間、定休日の詳細はインスタグラムで確認を。
@tane_ehon
おすすめ本棚
■BOOK FOREST 森百貨店 森多佳子さん
「ぎょうざがいなくなりさがしています」 (玉田美知子著)
ある日突然「ぎょうざ」がいなくなり、としおくんの想像の世界が始まります。「春巻きになる旅に出たのかなあ」とか、ぎょうざの気持ちをあれこれ考えます。子どもの無限大の想像力の描写と絵本ならではのファンタジー。
■Book shop tsukahara 塚原隆司さん
「それからはスープのことばかり考えて暮らした」(吉田篤弘著)
作品の舞台として描かれているまちの雰囲気や登場人物が好きで、この物語の世界観をイメージして今の本屋をやっています。作品数の多い作家さんなのでカウンターの前に設置した本棚の一列を特設コーナーにしているのもこだわりのひとつ。
■絵本・児童書専門店 たね書房 田中裕香里さん
「だるまちゃんとてんぐちゃん」(加古里子 さく/え)
楽しい絵とだるまちゃんのわがままをかなえてくれるだるまちゃんのお父さんに読んでいて気持ちが満たされます。最後にお父さんが「おおまちがいのとんちんかん」というのが言葉の響きも面白くて、何度も母にねだって読んでもらいました。
■igno...book plus 山田直由さん
「chance and change」
オランダ人アーティスト、ヘルマン・デ・フリースの作品集です。趣味の植物標本を作る時の参考にしています。植物そのままを、ありのままの姿で見せる彼の表現に好感を持っています。
■Hy.per_CHOCOLATE_books 尾崎俊介さん
「SEQUENCES Yuichiro Noda」
ロンドンと日本で活動する写真家、野田祐一郎の作品集。自分の感覚で撮っていて言語化するのはナンセンスだと思っています。物語性が強くないもの、意味があるのかないのかナゾが多いような、軽い表現で力が入っていないものが好み。
■bullock books 内田有香さん
「鉄砲撃ちに」(話 小野崎博、企画 鱈子)
県北の山を長年歩き回りシカやイノシシ、クマを撃ってきたという塩谷町の猟師を同町出身で現在は東京在住の鱈子さんが1年かけて口述筆記を行いまとめた本。山の中でゴソゴソと生息する人や動物のリアルが伝わってきます。