健やかな眠りを得るために
足工大睡眠科学センター 小林センター長に聞く
人生のおよそ3分の1を占める睡眠は、健康的な生活を送る上で欠くことのできない重要な時間です。「秋の夜長」に健やかな眠りを得るにはどうしたらいいか。睡眠を科学する足利工業大学睡眠科学センターの小林敏孝(こばやし・としのり)センター長(65)に「眠りのメカニズム」を聞きました。
健康的な睡眠とはどのようなものなのでしょうか。
健康的な睡眠とは、昼間の活動を充実させ、日中の活動を問題なく過ごせるような眠りをとることです。昼間、活動しているときに眠くなる、仕事に対する意欲が湧かないとすれば、それはよくない睡眠です。
健康的な睡眠は、まず布団に入ると時間が掛からずに寝てしまう寝つきがいいこと、睡眠の途中で目が覚めてしまう中途覚醒がないこと、朝起きた時に「ああ、よく寝た」という熟眠感があることが重要です。
適度な睡眠とは。
睡眠時間は一般に8時間の睡眠が健康的とされています。睡眠学では、睡眠時間が4~5時間の人を「ショートスリーパー」、9~10時間寝ないと気が済まない人は「ロングスリーパー」と呼ばれます。適度な睡眠時間は、その人の体調や季節によっても変わります。睡眠は十人十色で非常に大きな個人差があります。
夢を見るということは健康的ですか。
普通に健康な人で8時間寝たとすると、そのうち約2時間で夢を見ます。大体4~5回に分かれて90分ほどの周期で夢が現れます。最初の夢は寝入りから1時間半ぐらいで5~10分。3時間ほどでは2回目の夢が20分ぐらい出てきます。それから3、4回目の夢はおよそ30分から40分の長さで現れます。寝ている時間の後半であればあるほど長い夢を見ます。精神的に健康な人、心が健康な人は、ほとんど夢の自覚がないものです。自分の心の内面が変動している人、心配事があるといった人が夢をよく見て、その自覚が強く残ります。
快眠を得るには。
基本的には、規則正しい生活をするということが重要です。睡眠は生物リズムですから、1日24時間の周期で寝起きを繰り返すリズムを崩さないことです。決まった時間に寝て、決まった時間に起きる、これが快眠のための絶対条件ですね。そのためには昼と夜の行動のメリハリをつけることが重要です。昼間は知的でポジティブな活動や身体運動を活発にする。夜はできる限り静かに。部屋の明かりやテレビの音などを消して、睡眠を妨げないような環境を作り、脳を沈静化させることがポイントです。
昼夜のメリハリをつけるには運動が一番効果的です。会社帰りに散歩をする、ちょっとスポーツジムで体を動かすといった習慣づけがすごく重要です。
また、入眠をよくするには、入浴を利用する方法があります。夕食と寝る時間の間に入浴して体温を上げ、その後の体温の低下が脳の沈静化につながり、そこでかなり眠くなります。
足利工業大学の睡眠科学センターではどのような研究、開発が行われていますか。
センターでは睡眠の基礎研究を行っています。現在、「情動と睡眠」をテーマにした国際プロジェクトが進められています。フランスのリール大学神経科学研究室と共同研究を行い「睡眠が情動にどう関係するか」を研究しています。センターでは5人の工学部教授がさまざまな角度から睡眠に関する研究に取り組んでいます。