
アスポリポーターが気になる仕事を体験し、その内容や魅力などを紹介するシリーズ企画「お仕事体験」。第6弾は佐野市のご当地名物「佐野らーめん」です。市内には150店舗以上のラーメン店があり、市民だけでなく県外からも多くのファンが訪れる人気グルメです。今回はリポーターHが佐野市で佐野らーめん店の開業と移住を支援する「佐野らーめん予備校」でラーメン作りを体験。ラーメンのお供に欠かせないギョーザ作りも、同市内の人気ラーメン店「大和屋」で挑戦させてもらいました。
ご当地人気グルメ
おいしさの秘密に迫る
「佐野らーめん予備校」 &「大和屋」で体験

正統派や進化系 約150軒
◆「佐野らーめん」とは
澄んだスープにコシのあるちぢれ麺が特徴の佐野を代表する名物グルメ。大正時代に中国の料理人が「青竹打ち」の製麺技法を伝授したのがルーツといわれています。
現在、市内には約150軒の佐野らーめん店があり、あっさりしょうゆ味の正統派から、伝統の味をベースに新しい味わいを探求した進化系まで、それぞれがその店ならではの一杯を提供しています。
その1
佐野らーめん予備校
若田部さん、西沢さんに聞く
体力勝負の麺作り
片足で飛び、打つ… 四苦八苦

らーめん作り体験

「佐野らーめん」といえば、一にも二にも「青竹打ち」。今回は、佐野らーめん予備校が開発し、本格的な味が家庭で作れると評判の食育キットを使って佐野らーめん作りを体験。澄んだスープにちぢれ麺、具のチャーシューまで全工程にチャレンジしました。
教えてくれたのは、佐野らーめん予備校代表の若田部賢さん(51)と佐野市総合政策部総合戦略推進室移住・定住係長の西沢治さん(51)。2人はキットを使った親子体験会で講師を務めています。
まずはスープ作り。鶏ガラに残る内臓やげんこつについた血などを指でかき出し、流水できれいに洗い流します。今回作るのは3人前なのでこの量で済みますが、店のように数十人前を毎日作るのを想像すると、早くも尻込みしてしまいそうです。
次に鍋に豚バラブロック、げんこつ、鶏ガラ、野菜、魚介ダシ、水を入れて火にかけます。基本のスープだけでもこんなに材料が入るのかと驚きましたが、これならスープがうまいはずだと納得。

麺の生地作りは、「ネコの手」を作って軽くクルクルと粉を大きくかき混ぜるのがコツと教えられ、塩とかんすいを溶かした水を何回かに分けて入れながら、全体をまとめていきます。一つにまとまったら、粉っぽさがなくなるまでこねていきますが、かなりの重労働。作業の途中で「スープのアクも気にしてください」と若田部さんの指示が入ります。
寝かせた生地を足で踏んで伸ばしたら、いよいよ「青竹打ち」の工程。今回はキットに入ったミニサイズの青竹と長い竹の両方を体験させてもらいました。
そもそも、なんで青竹を使うのかというと、麺と竹の温度差が小さい(合っている)のと、竹で打つと生地が波打ち、麺の中に気泡が多く残るため弾力とコシのある食感に仕上がるからなのだそう。
想像以上に太い竹に右足を掛け、竹の端を右手で持っただけで右肩がずしりと重く感じられました。左足でピョンピョン飛びながら麺を打っていくと、日頃の運動不足がたたってすぐに体がきつくなり、若田部さんの補助がなければ少しも前へ進めませんでした。
〝料理は愛情〟再認識

ミニサイズの青竹の方が私には合っているようで作業に没入していたら、「おいしくなれと思ってやっていますか」と若田部さんから鋭い指摘が。そういえば最近料理をする時にそんなことを考えもしなかったなと、その一言で〝料理は愛情〟という大切なことを再認識することができました。
完成したラーメンは、見たこともないような極太麺になりましたが、麺はプリっとして弾力があり、澄んだスープもうまみがたっぷり。麺もスープもきれいに平らげてしまいました。

若田部さんからメッセージ
繊細なスープに豪快な麺。完成したラーメンの中にHさんの繊細さと豪快な一面が垣間見えました。うどん好きが作る手作りならではのアレンジで、佐野青竹手打ちらーめんの新たな扉を開いたかも知れません。今回体験したことによって、今度佐野らーめんを味わう時には、その店の歴史と技術の背景を感じ取ることができると思います。
体験した感想
1人で商売するなら絶対に「うどん」と、思わずポロっともらした瞬間、若田部さんの目がキラっとしたような。この時点で私が作るのは極太佐野らーめんという方向性が決定したのだと思います。材料の多さと完成までの手数の多さを実感し、やはりラーメンはハードルが高いと感じましたが、とてもおいしくできたので「私もしかして〝うどん〟できるかも」と、自信が芽生えてきました。
本業は不動産業の若田部代表と市職員の西沢さん。同予備校を担当する2人も基本の佐野らーめんを作ることができるのは、取り組みへの本気度が感じられ、飲食業未経験でも夢を持って移住を希望する受講者の安心材料の一つにもなるのではと思いました。
夢実現へお手伝い
佐野らーめん予備校

佐野らーめん店の開業を目指す人を対象に、佐野市への移住と、独立開業または跡継ぎがいない店を引き継ぐ事業継承を支援する市のプロジェクトとして2019年にスタート。これまで25人が受講し、そのうち8人が開業を果たしています。
講義は週末を中心に行われ約2カ月、計10日間のプログラムで調理や経営の基礎を学びます。講師は面接時に受講者から興味のある店を聞き、できるだけ希望に沿ったラーメン店の店主に依頼。また移住のための住居や店舗の紹介、開業後の経営相談まで、あらゆる面からオーダーメードのサポートを行っています。
募集は年4回程度で同校ホームページから申し込むことができます。募集人数は1~4人。研修費用は約25万円。
(問)佐野らーめん予備校・ホームページアドレスhttps://www.sanoramen-yobiko.jp/
あなたも挑戦!
プロの味が家庭の鍋で作れる「佐野らーめん食育キット」(約3食分5500円)は、同予備校のホームページから購入可。


その2
手打ちラーメン・手作り餃子 大和屋
池田さん夫妻に聞く
「おいしくなれ」コツ伝授
熟練の感覚、手際の良さに驚き

ギョーザ作り体験

あまり知られていませんが、佐野らーめん店で提供されるギョーザは大きめが一般的。ラーメンだけでなくギョーザも皮から手作り。もちもちの皮に野菜たっぷりのギョーザが評判の「大和屋」店主の池田淳さん(58)と美也子さん(58)夫妻に、ギョーザ作りを体験させてもらいました。

まず生地を棒状に切ったら、10等分になるよう指で小さくちぎっていきます。私は均等に切り分けるのもおぼつかない状況からスタート。麺棒を使って生地を円形に伸ばす作業では、なぜかいびつなハート型に。すると淳さんから「まあるくなあれ、おいしくなあれ」って思いながらやるといいよ、とのアドバイス。ここでもおまじないを伝授されました。

ギョーザを握るのは、美也子さんに教えてもらいました。皮の中央に餡(あん)を多めにのせ、皮の端にひだを寄せていきます。しかしここでは普段の私のやり方とは逆。小指の方からひだを寄せると聞き一瞬戸惑いましたが、確かにこちらの方が作業のスピードも上がり効率的。慣れない手つきで握りましたが、それでも手作りの皮なので生地がよく伸びてなんとか形になりました。
作業場に音声はかりがあり、淳さんが美也子さんの握った餃子を乗せたところ、どれも正確に50・2㌘。私の握ったのは30㌘、40㌘とものすごい誤差があり、思わず3人で笑ってしまいました。全部で24個を握らせてもらい作業終了。最後は美也子さんにギョーザを焼いてもらい、おいしくいただきました。

池田さん夫妻からメッセージ
筋がいい。ギョーザの皮を伸ばすのも握るのも数をこなすたびに上手になっていました。
体験した感想
私が一つを仕上げて顔を上げると、淳さんも美也子さんも10仕上がっているといった感じで、そのものすごい速さにはただ驚くばかりでした。食品を扱っているので手早さも重要になるといいます。普段なかなか見ることのできない熟練の技を間近で見る貴重な機会となりました。
Q&A 池田淳さん、美也子さんにインタビュー
細く長くおいしさ提供続けたい

Q ラーメン店を開業したきっかけは。
A 淳さん 証券会社で働いていましたが、どうにも会社になじめなかったし、人に使われるのも嫌だった。証券会社の仕事よりもうかると思って、ラーメンに夢を託しました。
Q 独立までの道のりは。
A 淳さん 市内にある数軒の佐野らーめん店でお世話になり、トータルで5年くらい修行させてもらいました。
A 美也子さん 主人とは会社の同期で、結婚前から独立することは聞かされていました。「サラリーマンの方がいいのでは」と思いましたが、なんでも器用にこなすタイプなのであまり心配はしませんでした。30歳で結婚し、3年後の1999年11月にこの店をオープンしました。
Q 大変なこと、逆にうれしかったことは。
A 美也子さん 大変なのはたまに休むと、その日たまたま来たお客さんから「いつも休んでいる」と言われてしまうこと。うれしいのは本当にいろいろな所からお客さんが来てくれて、1年に1回お盆の里帰りの時に地球の裏側から来てくれる人もいます。主人が不満をぶつけた会社員時代の元上司も退職したら食べに来てくれました。
Q 今後について。
A 美也子さん 実は、主人は51歳の時に目の難病を患い、今はほとんど視力がない状態です。でもこの仕事だから、結構なんとかやれちゃう。これからも細く長くゆるく続けていきたいです。
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手打ちラーメン・手作り餃子 大和屋
佐野市吉水駅前1の2の19
☎0283・61・1116
午前11時半~午後1時45分ラストオーダー(LO)、午後5時半~7時15分(LO)
※麺、スープ、ギョーザいずれかがなくなり次第閉店
㊡月曜(祝日の場合は営業、翌日休み)