「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成を進める宇都宮市は、それを基盤とした「スーパースマートシティ」の実現を目指しています。100年先も持続するまちづくり構想の一環で、人づくりとデジタル技術の活用を柱に、「地域共生社会」、「地域経済循環社会」、「脱炭素社会」を深化、発展させます。今回は、構想のけん引役を担う佐藤栄一宇都宮市長に、実現に向けた取り組みなどを紹介してもらうとともに、全国各地でデジタル社会の実現に向けて取り組み、同市の官民連携組織「Uスマート推進協議会」の構成団体でもあるNECの白石一彦執行役員に、デジタルを活用した今後のまちづくりについて語っていただきました。聞き手は、下野新聞社の岸本卓也社長です。

(企画・制作 下野新聞社クロスメディア局)

デジタルを活用したまちづくりなどについて語り合った
(左から)岸本卓也下野新聞社社長、佐藤栄一宇都宮市長、白石一彦NEC執行役員
(感染防止に十分留意して、意見交換を行いました)

環境は急変、課題は多様化 官民連携の「共創」がカギ

 岸本社長 スーパースマートシティの実現に際し、宇都宮市が直面している課題について聞かせてください。

宇都宮市 佐藤栄一市長

 佐藤市長 北関東の中核都市として発展してきた宇都宮市ですが、2010年代以降は全国の他の自治体と同様、少子高齢化による人口減少・人口構造の変化という問題に直面しています。19年10月の台風19号による被害も記憶に新しいですが、気候変動に伴う風水害の激甚化も深刻です。一方でデジタル技術は日進月歩で進化しており、宇都宮市も積極的な導入が必要不可欠です。私たちを取り巻く環境は急速に変化し、課題も複雑・多様化しています。宇都宮市が目指す「スーパースマートシティ」は今を生きる市民と未来を生きる次の世代が幸せに暮らせるまちが実現し、世界共通の目標であるSDGs(持続可能な開発目標)を達成するための「切り札」となるものと考えています。この実現には宇都宮で暮らす市民や団体、事業者、行政などによる「共創」の取り組みが必要であると考えております。

 岸本社長 事業者側は、こうした自治体の課題をどのように捉え、どのような役割を担っていくべきとお考えでしょうか。

 白石執行役員  宇都宮市同様、全国の自治体が多種多様な課題を抱えています。NECの考えるビジョンは「世界に誇れる『地域らしい』まちの進化」です。地域固有の「らしさ」と新しい「らしさ」を理解し、安心していきいきと暮らし続けられるまちを目指し、①経済基盤の活性化②住む人集まる人のQOL(生活の質)向上③地域特有課題の解決―の3点に取り組んでいます。NECは日本の社会インフラを支えてきた一企業としての使命・責任・役割に基づき、120年培った技術・知見・ノウハウ・実績・地域とのネットワークを活用し、自治体や地域の皆さまとともに「らしさ」を取り入れたデジタル社会の実現を目指しています。

多種多様な分野を横断 「体感」通じ理解促進

 岸本社長 「スーパースマートシティ」の実現には、市民、事業者皆さんの協力が必要不可欠と考えますがいかがでしょうか。

 佐藤市長 まさにその通りだと思っております。そのため、ICTなど先進技術を活用しながら社会課題の解決や新たな事業の創出に取り組む団体であり、宇都宮市も参画する「Uスマート推進協議会」では,今年度から観光や交通、まちづくり、エネルギーなどの分野に加え、子育て、福祉などの分野において、市民の皆さんにも参加いただきながら実証実験を進めることで体感を通じた理解促進に努めています。具体的には子育て支援の拡充に向け、スマホアプリを活用した子育ての頼り合いができるコミュニティを目指す実証実験や、福祉分野におけるウエアラブル端末やウェブ会議ツールを活用した効果的な介護予防サービスの実証実験などです。今後も「スーパースマートシティ」の実現に向けて、こうした体感を通じた取り組みを積極的に進めていきます。

 岸本社長 NECは市民、事業者皆さんとの「共創」についてどのように感じておりますか。

NEC 白石一彦執行役員

 白石執行役員 NECは全国30自治体で産学官民の領域連携などによるさまざまな実証実験を行っていますが、デジタル社会を推進する上で最も大切なことは市民の理解と共感だと感じています。市民・事業者の皆さんの身近なところで、デジタル社会を体感してもらう機会の創出は重要だと考えています。こうした点からも宇都宮市民との「共創」による「スーパースマートシティ」実現の取り組みに強く共感しますし、NECとしても一緒に「スーパースマートシティ」を実現したいという思いから「Uスマート推進協議会」に参加しています。本年度は、中心市街地の活性化に向けた実証実験としてNECのイベントDX(デジタルトランスフォーメーション)サービス「FORESTIS(フォレスティス)」を活用し、来訪者の状況に応じた会話型の観光案内「チャットbot」や、プッシュ通知で店舗コンテンツ情報を無料通信アプリ「LINE(ライン)」から配信する実証実験を行っています。例えば、訪れた店舗・観光スポットの情報を基に、その近くのスポット情報を紹介するコンテンツ配信機能では、現在地や時間帯などの状況に応じたレコメンド配信も可能です。実証実験による「体感」を通じて利用者の理解を促進し、こうした機能の実装を目指します。

人、モノのつながり強化 生活の質 向上へ寄与

 岸本社長 「スーパースマートシティ」の実現に向けた取り組みの先に、宇都宮市はどのような未来都市の姿を描いているのでしょうか。

 佐藤市長 「スーパースマートシティ」は単にスマートシティを高度化したものではなく、デジタル技術を上手に活用し、人もモノも、全てのつながりを強め、暮らすことができる元気なまちです。宇都宮市が進める「ネットワーク型コンパクトシティ」はコンパクトなまちが公共交通でつながった、多くの人がいつまでも暮らしやすい「まちの土台」のようなものです。そのしっかりとした土台の上で、子どもから高齢者までが絆を深め、誰もが誰かを支える人になれる「地域共生社会」を構築します。そしてさまざまな立場の人たちが活躍し、産業が集積することでモノや経済が地域でしっかりと循環する「地域経済循環社会」が生まれます。環境面においても未来への責任を果たす「脱炭素社会」の実現を目指します。デジタル技術は、こうしたまちづくりのつながりをより強くし、生活の質の向上に寄与するものとして活用を進めます。今後も失敗を恐れることなく、「オール宇都宮」で実現に向けた挑戦を続けます。
 

下野新聞社 岸本卓也社長

 岸本社長 下野新聞社も地域に根付いた企業として、真に市民の役に立つスマートシティを実現すべく、19年から「Uスマート推進協議会」に加盟し、実証実験に参画してきました。昨年度はコロナ禍において、中心市街地の飲食店とも連携し、デジタル技術を活用した混雑緩和を図る実験も行いました。本年度も宇都宮市、NECとともに実証実験に取り組んでいます。今後、宇都宮市では次世代型路面電車(LRT)開業や、JR宇都宮駅東口地区のまちびらきも控えています。まさに宇都宮市が変革する最大の好機ととらえています。デジタル社会の中で、最先端技術を持つ企業と地元事業者のつなぎ役となり、宇都宮市ならではのソリューション(課題解決)を生み出す役割を果たしていきたいと考えています。

宇都宮市が目指す「スーパースマートシティ」の姿(イメージ)

 

 

Uスマート推進協議会構成団体

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、株式会社AsMama、株式会社アバンアソシエイツ、宇都宮市、国立大学法人宇都宮大学、宇都宮ライトレール株式会社、株式会社NTTドコモ、関西電力株式会社、関東自動車株式会社、共同印刷株式会社、クラフトワーク株式会社、KDDI株式会社、株式会社JTBコミュニケーションデザイン、株式会社下野新聞社、東京ガス株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社 栃木総支社、日本電気株式会社、株式会社NEZASホールディングス、東日本電信電話株式会社、株式会社日立システムズ、富士通Japan株式会社、ホンダモビリティソリューションズ株式会社、三井情報株式会社、三井住友海上火災保険株式会社、三井住友ファイナンス&リース株式会社、株式会社三菱総合研究所、早稲田大学

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