民俗学者の宮本常一(みやもとつねいち)が1960年に刊行した代表作「忘れられた日本人」に、四国遍路に関するくだりが出てくる。明治の頃とおぼしき時代に、遍路を体験した老女への聞き書きの一節である▼「伊予の山の中では娘をもろうてくれんかと言われ…」「よっぽど暮らしに困っておりまっしろう。遍路の中にも子供の手をひいてあるいているのがたくさんおりました」。遍路を里親として子どもを託す実態があったのを初めて知った▼県が虐待や貧困などを理由に、親元で暮らせない子どもを里親らが養育することを推奨する「県社会的養育推進計画」を来年度中に策定するという。県内の要保護児童のうち里親らへの委託率は20%に満たない。「施設から家庭へ」の流れを促す国の方針を受け、委託率を高める考えだ▼そのためには里親を増やさねばならない。県里親連合会長の小口晋(こぐちすすむ)さん(76)は「子ども好きであればそう難しいことではない」と協力の輪が広がることを期待する▼矢板市で理髪店を営む小口さんはこれまで10人の里子を育てた。「ここを巣立っていった子どもが『ただいま』と言って訪ねてくる。言葉にできないほどうれしい」と話す▼人知れぬ苦労もあったに違いないがおくびにも出さない。すべての子どもが笑顔でいられるよう社会全体で支援を強める必要がある。