ミズバショウの群生地として知られる日光市土呂部。一風変わった地名は、ミズバショウが生えるような湿地の「泥」と、その辺りを意味する「部」が合わさったとも伝わる▼その土呂部のなだらかな斜面で毎秋、刈り取ったススキなどを束ねて乾燥させる「茅(かや)ボッチ」の光景が風物詩になっている。活動に取り組む「日光茅ボッチの会」が今月、設立から10年を迎えた▼放牧や火入れなど人の手が加わることで希少植物が育まれる採草地。1970年代に約20ヘクタールだった土呂部の「半自然草原」は2013年に約5ヘクタールに激減した。多様性に富む貴重な環境を残そうと同市職員だった飯村孝文(いいむらたかぶみ)さん(66)は早期退職し、有志と会を立ち上げ代表に就いた▼作業は秋の茅ボッチ作りに限らない。定期的な採草やシカ食害防止の電気柵設置、キセワタなど約20種に及ぶ希少植物の増殖と多岐にわたる。飯村さんは「市内の自宅から車で片道約50分かけ、昨年は110日通った」と語った▼晩秋の今月初め、会員が茅ボッチの回収に励んだ。ススキなどは市内の栗山和牛改良組合へ無償提供し地産地消にも貢献する▼課題は会員約50人の高齢化と後継者難。それでも飯村さんは「地元の財産を未来へつなぐ」と前を向く。土呂部にふさわしい花言葉がある。ミズバショウの「変わらぬ美しさ」である。