今夏公開された短編映画「さまよえ記憶」は、行方不明の息子を探す母とその父親を巡る切ない物語。水面(みなも)に石を投げて跳ねさせる「水切り」が印象的に描かれる▼撮影には、小山市在住のシステムエンジニア橋本桂佑(はしもとけいすけ)さん(31)が協力した。国内外の大会で優勝を重ねる「水切り界のレジェンド」である。先日も高知県の仁淀川で開かれた国際大会で6度目の頂点に立った▼地元の思川での水切り遊びが原体験。栃木高では野球部で捕手だった。東北大進学後に仙台市の広瀬川で水切りの面白さにはまり、競技として取り組み始めた▼「自然の中で、体一つで美しいものを生み出せる。石は一つとして同じものがなく、工夫の余地が多い」と魅力を語る。仁淀川大会では「人生最高の一投」で弟子と認める若手を退け、矜持(きょうじ)を示した▼橋本さんの水切りを思川で見せてもらった。雨の中、河原で探した石を丁寧に布でふき、下手から流れるような動作で黙々と投げる。石は川面を滑りながら幾度も水紋を残し、約50メートル先の対岸に難なく届いた▼誰でも手軽にできるものほど、奥が深い。「水切りを文化として育てたい。70歳くらいになったら、謎の水切り名人としてテレビに出たいですね」。一瞬緩ませた表情に、無邪気に石を投げ遊んでいたであろう子どもの頃のような笑顔がのぞいた。
ONDO 熱を帯びて、その先へ
ONDO(オンド)は栃木県の未来をつくる若者にクローズアップした企画です