真夏の炎天下、散歩に行く気力なんてないよ…とゼミの企画会議でうなだれる私たち。きっと読者の皆さんも同じ気分ではないだろうか。だったら、とにかく涼しい所に行きたい。でも避暑地巡りは平凡だから、今回の散歩はいろんな種類の“ヒンヤリ巡り”に決定。これなら行けるぞ、出発だ!(松島翠(まつしまみどり)、長嶋優太(ながしまゆうた)、森谷佳保(もりやかほ)、大橋爽乃(おおはしその))

 

洞窟が日本酒の蔵に 島崎酒造(那須烏山)

 ヒンヤリできる場所を探していると、「どうくつ酒蔵」という見慣れない言葉を発見。早速、那須烏山市にある創業170年の老舗「島崎酒造」を訪ねた。島崎酒造蔵元グループの土橋雄介(つちはしゆうすけ)さんの案内で、山の中にある洞窟にドキドキしながら入ってみると…汗も引っ込む冷気だ。戦時中に戦車の部品工場用に掘られて、結局使われなかった跡地。戦後ずっと放置され、15年前に同社が地主から借りて酒蔵として使い始めた。

長袖を着込んで、さあ洞窟探検に出発だ!

 洞窟内の年間平均気温は10度で、冷房を一切使わずに日本酒を貯蔵している。まさに天然の冷蔵庫で、こんな酒蔵は全国でも珍しい。日本酒は光を当てると味わいが変わるから、酒屋の店内は薄暗いのが普通だが、光が入らない洞窟はその点でもピッタリだ。

 縦3本、横5本の直線の通路が交差する総延長600メートルの秘密基地のような洞窟内には、酒瓶が約8万本も並んでいる。

「オーナーズボトル」の瓶たちには、それぞれの物語の写真が…。

 あ、大きな棚を発見。ここには、お客さんが購入済の「オーナーズボトル」と呼ばれる大吟醸酒が、5~20年もの期間、預けられている。現在1600本ほどが並ぶ人気で、生まれたわが子の20年後の成人祝いや、40歳を過ぎて自身の還暦祝いを見据えて注文する人が多いとのこと。未来の大切な人や自分へのプレゼント、“いいね”! 

 洞窟は映画の撮影やイベント用にも貸し出され、100人規模のコンサートが行われたりもしている(音響すごそう)。聖地巡礼を目的に訪れる人もいるそうだ。

 洞窟開放日には、中の売店で試飲も可能。天然冷蔵庫でヒンヤリしながら、おいしい日本酒を一杯いかが? 

島崎酒造「どうくつ酒蔵」 JR烏山線滝駅から徒歩15分。洞窟開放日はホームページ参照。料金は大人200円。

手間を実感の天然氷 松月氷室(日光)

 次は食べてヒンヤリ、かき氷屋さんの「松月氷室(しょうげつひむろ)」だ。魅力は天然氷。スーパーなどで売っている人工の「純氷」は機械で1~2日で作るのに対し、天然氷は9月の草取りから始め、12月24日ごろの寒くて無風の日から2週間かけて凍らせる、全5カ月の製造工程。

 長年の技、知識、天気を読む力が必要だ。吉新昌夫(よしあらまさお)社長は「純氷は工業製品、天然氷は農産物」と言う。

社長さん取材中、かき氷に夢中の私たち。これでミニサイズ!?

 以前、ここのかき氷を食べた学生記者が「なぜ食べても頭がキーンとならないの?」と質問する。この頭痛は、体に冷たすぎる物が入った時に疑似的に起きる反応で「アイスクリーム症候群」というそうだ(なんだかかわいい!)。

 発症しない秘訣(ひけつ)は、冷た過ぎないかき氷を作ること。そのギリギリの温度設定はマイナス3度。速く凍らせた純氷は溶けるのも速く、この温度ではシャバシャバになってしまうが、時間をかけて作った天然氷は溶ける寸前で削ることができるため、キーンとならない状態でお客に出せるのだ。

慣れた手つきで天然氷を切る店員さん

 「わぁ、大きい! きれい! おいしい!」の3段階サプライズを目指して、メニューも豊富だ。「生いちごプレミアム」は、いちごソースにではなく、氷の方に甘さをつけるこだわり。春限定「さくら氷」、秋限定「モンブラン」は、吉新社長の人脈によりプロの和菓子店やケーキ店の技術が使われている。記者のお気に入りは、夏限定「生マンゴースペシャル」。完熟とろとろのマンゴーが甘くて“いいね”!

松月氷室 JR日光線今市駅から徒歩7分。平日午後0時~4時、土、日曜日午前11時~午後5時。整理券の番号順に提供。

味わえる怖いお化け 丸山工芸社(佐野)

 最後は、こわ~いヒンヤリ体験を制作している裏方さんの現場へ。

 お化け屋敷の設計から施工まで全て自社で行う佐野市の「丸山工芸社」は、創業101年の老舗。日本最古の遊園地「浅草花やしき」の初のお化け屋敷も手がけた。人形や機械による仕掛けで、お客さんを1世紀以上も怖がらせ続けている。

お化け屋敷開場前日(先月)、お岩さんを仕上げる3代目

 3代目社長の柳誠(やなぎまこと)さんは、本県の伝統工芸士。人形は「佐野の生人形(いきにんぎょう)」という伝統工芸品に認定されている。ぞっとするほどリアルな生人形の表情は、手書きの下絵と柳さんによる想像力で生み出される。自分の作った人形とそっくり同じ顔の人に出会うヒンヤリ体験を3回もしているそうだ。

 でも最大の恐ろしい出来事は、4年前の類焼火災。事務所や人形部屋、衣装部屋などの大切な部分が全焼し、江戸時代に作られた貴重な人形を含め約200体が燃失、もう続けられないとみんなが思った。ところが、下野新聞などの記事を見た人たちから着物などの寄付や激励が続々と届き、柳さんたちは「これはつぶせない」と奮起して今も頑張っている。

 丸山工芸社のお化け屋敷は、昔から日本に伝わる怪談などのストーリーに基づいて作られていることが多い。4代目夫人の柳美菜子(やなぎみなこ)さんは「物語を再現して作っているので、日本の文化に触れていきつつ怖さを感じてもらえたら」と語る。ただ怖いだけでなく、ストーリーを味わうという本来のお化け屋敷の楽しみ方が“深いいね”! 

義眼、セラミックの歯、人毛…今にも喋り出しそうな生人形=丸山工芸社
丸山工芸社が手がけるお化け屋敷 (1)道の駅どまんなかたぬま 27日まで(水曜日休業)。料金400円(団体割引あり)。(2)宇都宮市オリオン通りACプラザ 27日まで。料金は小学生100円、中学生以上300円。

散歩を終えて 【丁寧な手作りの涼】

 戦時中、動員された中学生たちが手で掘ったという洞窟。育て、切り出し、削り…と手の込んだ天然氷。製造工程が大変すぎて、記事で説明するのを諦めた幽霊たち。涼みたいという単純な発想で始まった散歩。訪ねた先にあったのは、丁寧な手作りが生んだヒンヤリばかりでした。おかげで身も心もすっかり涼み、この夏も乗り越えられそうです。

取材した4人