会場に足を踏み入れると、渥美清(あつみきよし)さん演じるフーテンの寅(とら)さんの巨大な写真が迎えてくれた。満面の笑みで「いよっ、元気かい」と声を掛けられているような感覚になる▼宇都宮美術館で企画展「篠山紀信しの(やまきしん)展 写真力」が始まった。日本を代表する写真家の篠山さんが、半世紀にわたって撮ってきた膨大な人物写真の中から、時代を象徴するスターの写真を中心に約120点が展示されている▼先日の内覧会で篠山さんは、企画展の狙いを「非日常の大空間に、写真の力がみなぎった大型パネルを置いて対決させた」と明かし、「鑑賞ではなく体感してほしい」と強調していた▼中央ホールに展示され、企画展のポスターに使われたのは、ジョン・レノンと妻のオノ・ヨーコさん共作のアルバム「ダブル・ファンタジー」のジャケット写真。その1カ月後にジョンは凶弾に倒れた▼三島由紀夫(みしまゆきお)さんは「男の死」をテーマに撮影を依頼し、完成してから1週間後、割腹自殺という壮絶な死を遂げた。どちらも不思議なタイミングとなったが、その時代の空気を見事に切り取っている▼最後のコーナーには東日本大震災で被災した人々の肖像が並ぶ。震災から50日後に現地に入り「ここに立ってレンズを見て」とだけ注文を付けたという。写真の圧倒的な存在感を誰もが感じるのではなかろうか。